ジョバンニが見た世界…大きな星座の図(1)2013年02月02日 19時46分54秒


(特に記事とは関係ありませんが、↑は平成7年に、千葉市立郷土博物館 と 府中市郷土の森博物館 で開催された「星座の文化史」展の図録)

このシリーズ、まずは「午後の授業」の場面、次いで「時計屋」の場面を順々に検討してきましたが、7年かけてついに最後のアイテムまでたどり着きました。実に長い長い道のりでした。

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煩をいとわず、もう一度「時計屋」の場面を全文引用します。

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 ジョバンニは、せわしくいろいろのことを考えながら、さまざまの灯や木の枝で、すっかりきれいに飾られた街を通って行きました。時計屋の店には明るくネオン燈がついて、一秒ごとに石でこさえたふくろうの赤い眼が、くるっくるっとうごいたり、いろいろな宝石が海のような色をした厚い硝子の盤に載って星のようにゆっくり循(めぐ)ったり、また向う側から、銅の人馬がゆっくりこっちへまわって来たりするのでした。そのまん中に円い黒い星座早見が青いアスパラガスの葉で飾ってありました。

 ジョバンニはわれを忘れて、その星座の図に見入りました。

 それはひる学校で見たあの図よりはずうっと小さかったのですが その日と時間に合せて盤をまわすと、そのとき出ているそらがそのまま楕円形のなかにめぐってあらわれるようになって居り やはりそのまん中には上から下へかけて銀河がぼうとけむったような帯になって その下の方ではかすかに爆発して湯気でもあげているように見えるのでした。またそのうしろには三本の脚のついた小さな望遠鏡が黄いろに光って立っていましたし いちばんうしろの壁には空じゅうの星座をふしぎな獣や蛇や魚や瓶の形に書いた大きな図がかかっていました。ほんとうにこんなような蝎だの勇士だのそらにぎっしり居るだろうか、ああぼくはその中をどこまでも歩いて見たいと思ってたりして しばらくぼんやり立って居ました。
                                   (「四、ケンタウル祭の夜」より)

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ジョバンニはこのあと、お母さんの用事を思い出して、牛乳屋へと向かいます(そこに「ミルキーウェイ」のイメージを重ねる解釈もあるようです)。

その直前に出てくるこの星座図、叙述の順序としては最後に登場しますが、おそらくショーウィンドウの中では、一番大きな面積を占めていたはずで、当然ジョバンニの目をまっさきに捉えたことでしょう。そして、これこそジョバンニをして銀河の旅へと向かわしめた品でもあります(=「ああぼくはその中をどこまでも歩いて見たい」)。したがって、作品世界においては非常に重要な役割を果たしている小道具だと言えます。

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この星座図は、午後の授業に出てきた星座の掛図とイメージがかぶっていますが、ある意味、星座掛図以上に候補を探すのは難物です。世に星座絵はさまざまあれど、壁面を飾るぐらい大きな図はなかなかないからです。

もちろん、現代の星座ポスターは論外です。
クラシックかつアンティークな品で、それほど大きな星図が存在するかどうか?
…というわけで、そもそも過去に存在した星図は、どれぐらいの大きさがあるのか、調べてみることにしました。

(この項つづく)