謎の化学カード(第1夜) ― 2013年04月11日 20時48分15秒
私がその家の門口まで来ると、小倉の袴を着けた書生風の若い男が、先客数人を家のうちに案内しようとしているところだった。私が目で挨拶すると、男もすぐに察したのか、列に加わるよう慇懃に述べ、先頭に立って歩き始めた。
私たちは式台付きの玄関を上がり、磨きこまれた廊下を通って、奥の座敷に通され、互いに無言のまま、この家の主人が現れるのを落ち着かない気分で待った。
私たちは式台付きの玄関を上がり、磨きこまれた廊下を通って、奥の座敷に通され、互いに無言のまま、この家の主人が現れるのを落ち着かない気分で待った。
ややあって、右手の襖がすっと開くと、背中を丸めた老人が、それでもしっかりした足取りで入ってきた。
「いや、みなさんにはご足労をおかけしまして…老人のわがままに、こうしてお付き合いいただき、まことに恐縮の至りで…」
老人は、型通りの挨拶を述べると、つるりと顔を撫でた。
「さて、本日お呼び立てしたのは、ほかでもない。実はある『謎』を解いていただきたいと思った次第でして。本日おいでいただいた皆さんは、お互い初対面の方もいらっしゃいましょうが、それぞれ理科趣味に深い志のある方ばかり。そのお知恵を拝借して、その謎が解ければこの老人にとって重畳至極、また皆さんにとっても、春の宵の無聊を慰めるひと時になるのではと思いましてな。」
老人の奇矯な言い分に驚きつつ、私は老人の言う「謎」にひどく興味を覚えた。
「まあ、これをご覧くださいまし。」
老人はエジプトの星月夜をデザインした、一風変わったトランプのようなものを取り出した。
「昔ながらの石版刷りで、大正頃のものでもありましょうか。父が買ったのか、兄が買ったのか、いずれにしても私が子供のころには、すでに当家にありましたもので、幼心にこの異国風の絵柄がひどく気に入ったのを覚えております。」
「さて、問題はこの裏面…いやおもて面でしょうか、その中身でして。」
「ご覧のように、表には何やら物質の名称が絵入りで書かれております。また化学式らしきものが書かれたカードもあります。しかし、このカードが総体として何を表しているのか、また本来どのようにしてゲームを進めたものか、今では説明書も残されておりませんし、私も家族から聞いた覚えがありませんので、皆目わかりませんのです。」
「謎と申し上げたのは、このことでございます。どうでしょう、ひとつみなさんの推理をお聞かせ下さいませんでしょうか。隣の部屋に、あらかじめカードを一通り並べてありますので、そちらに座を移して、どうぞじっくりとご検分ください。」
老人がここまで言うと、先ほどの書生風の男が、隣室に通じる襖をさっと開けた。
★
あまり意味はありませんが、何となく推理仕立てにしてみました。
老人とともに私からも皆様のお知恵を拝借したく、どうぞよろしくお願いいたします。
なお、すでに答をご存知の方は、しばらく口チャックでお願いします。そして最後まで謎が解けなかったら、どうぞ助け舟をお出してください。
それでは第2夜につづきます。
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