続・東大発ヴンダーの過去・現在・未来…西野嘉章氏の軌跡をたどる(3)2013年04月26日 23時02分34秒

「探検バクモン」をご覧になりましたか?

番組には「人類史を書き換えたラミダス猿人の歯の化石」やら、「スミソニアン博物館から引き合いが来た昆虫標本」やら、「世界に3セットしか残っていない、歴史的ダイヤモンドの貴重なレプリカ」やら、“さすがは東大!”と思わせるものが続々登場し、単純に凄いと思いました。言うなれば、あれは「歴代皇帝の秘宝展」的な、豪華珍品主義の世界ですね。

でも、番組の終わり近くに登場した、西野氏のこだわりの展示を見て、インターメディアテクには、また別の顔もあることを知りました。

その展示とは、鉱物結晶模型や、スクリューの模型や、変わったガラス壜などを、小ぶりのキャビネットに並べて、何の説明もなしにポンと置いてあるというもの。
氏の狙いは、そうした雑多なモノたちの集積から、<かたち>の面白さ、幾何学的形態の妙を感じ取ってもらおうというもので、その試み自体面白いと思いましたし、その場で西野氏が「僕の独りよがりかもしれないけれど…」と、ぼそっと呟かれたのが、いっそう印象的でした。

芸には往々にして「表芸」と「裏芸」があって、裏芸にはいっそう濃やかな味があるものです。インターメディアテクにも、西野氏自身にも、まだまだ語られざる裏芸があるのでしょう。少なくとも、小石川に漂っていたモダンアートの空気は、今なお健在のようです。

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さて、前々回の記事のつづき。

東大というフィールドを得て開花した西野氏の取り組みは、1997年、安田講堂を使った「東大創立120周年記念『東京大学展』」という大規模展に結実します。そして、これまた『芸術新潮』の誌上で特集を組まれました(97年12月号)。



その時の表紙を飾った煽り文句は、やっぱり東京大学のコレクションは凄いぞ!」「ここ掘れ、東京大学」「あの安田講堂を覗いてびっくり!金では買えない逸品から、どこが研究なんだと首をかしげる珍品まで/長く険しい学問の道は、かくも豊かな驚きに満ちていた!」というものでした。

この辺が、なんとなくインターメディアテクの表芸に近いような…。

上記特集中、西野氏は荒俣宏氏との気の置けない対談の中で、その経緯と意図をこう述べています。

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荒俣 〔…〕でもどういうきっかけで、こういう展覧会が実現したんですか。
西野 120周年記念展の企画を出せと去年の秋に言われて…。じつは以前から総合研究博物館の展示をやっていて感じていたんだけれど、古い博覧会形式の学術資料展をやってみたいと思っていた、それも安田講堂のような空間で。それが今回、実現できたんです。
荒俣 グランド・デザインは西野さんがやられたんでしょう?
西野 ええ。会場中央の〝神殿〟というのは、実はギリシア神殿のプロポーションになっていて、その上にローマ彫刻が乗っている。神殿の正面に立つと、壇上のミイラのケースの枠が十文字に見えるんです。これを十字架に見立てると、エジプトからギリシア、ローマ、キリスト教まで入っていて、これが西洋文明の基軸をなす。その周りにもろもろの学術が展開していくという…。
荒俣 なるほどね、そういう構成になってたわけか。西野さんの深い意図がよくわかりました。
西野 もうひとつ言うと、フランス語でいうところの珍奇物を集めた部屋〔原文ルビ/シャンブル・ド・キュリオジテ〕とか、驚異の部屋〔同/ヴンダー・カンマー〕をなんとかして作りたかった。だから現代の博物館展示からすると、わかりにくいかもしれない。編年的に並んでいるわけでも、分野別になっているわけでもないですから。
荒俣 やっぱりそうか!
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(いずれも同展会場風景、上掲誌より)

衒学的とも思える展示プラン、ヴンダーカンマーの意図的再現、そこはかとなく漂うアートの香り。表芸である豪華珍品主義の方は、おそらく西野氏ならずとも成し得たと思いますが、こうした裏芸こそが氏の真骨頂なのでしょう。

(この項つづく)