天体議会の世界…「南へ」(2)2013年07月23日 15時21分04秒

銅貨の父が住む南方の小島に、少年らしい夢を描くのは、親友の水蓮も同じです。
銅貨をつかまえて、さっそく問いかける水蓮。

「それで、休暇はどうしてた。南へ行ったのか。」
「行ってないよ。兄にその気がないものだからさ。」
「そうか、南の話が聞けるかと期待してたんだぜ。あの島ぢゃ、真昼でも人工天体を見つけられるって云うだろう。それに淡貝色〔うすかいいろ〕の古代ヒルガヲ。」(p.27)


ここに出てくる「古代ヒルガヲ」という植物が、本当にあるのか、あるいは作者の創作なのかは、いまだに謎です。また、普通のヒルガオにしろ、浜辺に咲くハマヒルガオにしろ、その分布域はきわめて広いので、「南」の象徴とするのは、ちょっと苦しいところもあります。

でも、長野氏にとって、夏の日盛りに可憐なピンクの花をつけるヒルガオは、言いようもなく「南」を感じさせる存在なのでしょう。一般には雑草扱いですが、私もヒルガオは好きな花です。

【7月24日付記】
 コメント欄で、このヒルガオは「グンバイヒルガオ」ではないかとご教示をいただきました。日本では主に鹿児島~沖縄に分布し、ウィキペディアの記述、「この植物が一面の群落を作るのは熱帯域の砂浜海岸の普遍的な風景である」というのを読むと、銅貨と水蓮が憧れた南の光景に、いかにもふさわしく思えます。ここでは「古代ヒルガヲ = グンバイヒルガオ」説を最有力候補としたいと思います。
 なお、グンバイヒルガオは、下の図鑑の写真でいうと(名前が画面からはみ出して写っていませんが)、左下のハート形の大きな葉を持った種類がそれです。

(図が繊細な、保育社版 『原色日本植物図鑑・草本編Ⅰ』)

同じような表現は、銅貨がラジオの気象通報を聞く場面に、もう1回出てきます。作者がいかにヒルガオを愛好しているかが伺えます。

定点の最南端にあるのが、銅貨の父の赴任している島だ。その島の天候を聞くたび、温〔ぬる〕んだ風や甘く匂う淡貝色の植物〔ヒルガヲ〕のことを思った。気温や湿度を伝える単調な声の向こうに、父の声が聞こえるような気がする。ラヂオの雑音は珊瑚〔コラール〕の海岸に打ち寄せる波の音に似ている。(p.44)

   ★

ところで、前回引用した文章の中に、南の島で重宝されている「蝶型の翅を持ち、地面すれすれの低空を飛ぶ」、「蝶凧〔パピイ〕と呼ばれる乗り物」というのが登場します。

「蝶凧」と名の付くモノは、確かにこの世に存在していて、検索すると下のような中国の伝統凧が出てきますが、「天体議会」の世界に登場する乗り物としては、いかにも場違いな気がします。


私が漠然とイメージするのは、「風の谷のナウシカ」で、主人公のナウシカが操るメーヴェという、一人乗りの飛行機械で、あれと凧、さらに南方のイメージを私なりに重ねると、マレーシアの空を翔ぶ「マレー凧」の姿が思い浮かびます。

(マレー凧の切手)

なかなか颯爽としていますが、でも、あまり「蝶」という感じはしないですね。実際、マレー凧は蝶をモデルにしたものではありません(尻尾の形に応じて、月とか、鳥とか、猫などを表しているらしいです)。

では、もっと昆虫っぽいイメージで何か…というと、これまたジブリの「天空の城ラピュタ」に出てくるフラップターなどを思い浮かべます。



ただし、蝶がモデルであるからには、もっとのんびり飛ぶ感じの乗り物なのでしょう。
ここで問題は、どんな蝶をモデルにするかです。

(こんな風に話を続けていると、いつまで経っても終わりそうにありませんが、南の島の話題ですから、ここはのんびり進めることにしましょう。この項つづく)