天体議会の世界…アルビタイト(1)2013年08月07日 21時25分40秒

今日は立秋。
暑さは酷いですが、日はずいぶん短くなりました。
近所では盆踊り会場が、なかなかにぎわっていました。

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さて、ちょっと叙述が前後しますが、カボションカットの時計の話題の直前に、水蓮と銅貨の関係と、水蓮の人柄をよく示すエピソードが書かれているので、そちらも見ておきます。

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プラネタリウムの記事(http://mononoke.asablo.jp/blog/2013/07/25/6919879)の中でも触れたように、二人が出会ったのは、今から3年前のある冬の日でした。

水蓮は顔だちの綺麗な少年である。彼と知り合ったのはもう何年も前のことだが、銅貨はその日のことを、いまだによく覚えている。水蓮は季節はずれの転校生だった。
〔…中略…〕
「きょうからかい。」
 少年と目が合ったので、銅貨のほうから声をかけた。少年はものおじしない性質〔たち〕らしく、途端に笑みを浮かべてみせ、初対面の緊張はすぐにほぐれた。(pp.17-18)

プラネタリウムの広告燈の話題から始まって、鉱石の話題、天体の話題…二人はすぐに意気投合して、互いに似た嗜好、似た感性の持ち主であることを、強く感じ取りました。そして、次の名場面へと続きます。

「これ、きみにあげる。きょうの記念さ。」
 水蓮は鞄の中から、薄荷色〔はっかいろ〕の斑〔はん〕がある灰碧〔はいあお〕の石を取り出した。
「これは、」
「アルビタイト。前にいた北方の沿岸で拾ったんだ。ふつうはもっと灰色がかっているけど、これは碧〔あお〕がよく出てる。ちょっと瑪瑙〔めのう〕のようにも見えるだろう。受け取ってくれる。」
「ああ、もちろん、もちろんだよ。」
 あとでわかったのだが、水蓮が誰かに石を与えるということは、最高の信頼を示してのことなのだ。銅貨と水蓮は、そんなふうにして知り合った。」(p.19)


もちろん、これは創作〔おはなし〕に過ぎず、現実に二人の少年が、こんな出会いをすることはないでしょう。でも、創作にしても、美しい創作です。そして、そこには現実以上の真実が込められている気がします。そう感じるのは、おそらく水蓮の「石」に相当する<何か>を、誰かに与えた(あるいは与えられた)経験を、多くの人が有しているからでしょう。

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さて、ここに出てくるアルビタイトについて、ちょっと触れておきたいのですが、長くなりそうなので、ここで記事を割ります。

(この項つづく)