天文古書の黄昏(3)2014年02月20日 22時36分58秒

(かつて東大で「驚異の部屋展」を催した、マーク・ダイオンのインスタレーション作品、「Antiquarian Book Shop」(2008)。出典:http://nonaorbach.com/blog/?p=3553)


サンダーソン氏の投稿は、別のアンティーク望遠鏡のメーリングリストにも転送されました。その上で自らの思い出を語ったのは、サイエンスライターのトゥルーディー・ベル氏。ルーサー氏の横顔を伝えるために、彼女の心温まる文章も併せて載せておきます。かつての天文古書界に流れていた ― といっても、そんなに昔のことではありません ― 空気が感じ取れる内容だと思いますので。

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「サンダーソンの文章に、私も一言付け加えさせてください。

私は1970年代の半ばからポールの店で本を購入してきました。その中には、サンダーソンも挙げたポール自身が著した本も含まれます(ときに、現在販売中のポールとヴァルの本、『癒すことと癒されること』は、彼自身の写真で飾られています)。ポールの天文学の歴史と文献に関する深い知識は、19世紀米国における天文台・機材・天文家に関する私の研究に役立ったのはもちろん、彼との会話を、単なる本の注文以上のもの、ある種の喜びに変えてくれました。そこから私はいつもきらめく情報のかけらや手がかりを拾い上げたのです。

皆さんの多くがご承知のように、私のコレクション対象は機材ではなく、19世紀米国の天文台・機材・天文家に関する書籍です。それは今や高さ180センチのガラス戸付きの本棚4棹分に達しています。

サンダーソンが触れなかったイベントに、ポールが1979年に開催したオークションがあります〔引用者註:このオークションのことはサンダーソン氏も書いていたので、これはベル氏の勘違い〕。これはひょっとしたら、彼が開いた唯一のオークションかもしれません。そして間違いなく私が出席した唯一のオークションです。出品目録を見た後、私はたった1つの目的を持って会場に赴きました。すなわち、1810年に出た「王立協会哲学紀要1665-1800年」縮約版18巻セットという信じ難い出物を、確実にものにするためです。最終的に、手紙で入札してきた1人を相手に対抗したのは私だけでした。そして私は競り勝ちました。この計り知れない価値を持つセットは、今でも私の宝物であり、役に立っています。

ポールからは「ポピュラー・アストロノミー」誌の製本済みの全巻揃いも手に入れました。さらに私の関心領域に大きな研究上の価値を持つ他の資料類も。彼は、顧客が関心を持っている研究対象を知ると、その人にとって価値が乏しいと思えるものは遠ざけ、同時に、その顧客が強い興味を持っている資料は探し続けてくれました。

1970年代に、私は偶然見つけた書庫で、アメリカで最初の天文協会に関するメモやその他の資料を収めたスクラップ帳に出くわしました。その協会は、上級アマチュア天文家からなる短命に終わった団体で、ギャレット・サーヴィス、スティーブン・ヴァン・カレン・ホワイト、ヘンリー・パーカースト、その他多くのメンバーが参加しており、ニューヨークのブルックリンにありました。価値ある素材を含むそのスクラップ帳は、もちろん一編の記事を書き上げる題材となりましたが、その貼り込みがちょうど巻末で終わっていた事実から、ひょっとしたらそれに続く、埃まみれの分厚いスクラップ帳がもう1冊どこかに存在するのではないか?という推測を、私は上記の記事の最後で述べておきました。それから2、3年後、ポール・ルーサーが私に電話をかけてきて言いました。「どうやら第2のスクラップ帳を見つけたみたいなんだけど…。」まさにその通りでした。そのスクラップ帳は無事私のコレクションに加わり、もう一編の研究論文になるのを待っています。

彼の在庫を個人的に見せてもらい、夜を徹して熱心な歴史的議論をするべく、週末にマサチューセッツまで車を走らせたことが何度かありました。そんなとき、ポールと奥さんのヴァル、それにお嬢さんのレイチェルは、私を温かくもてなしてくれました。彼は常に恐るべきアイデアと知恵に満ちており、彼がたとえ数年かけて商売をたたみ、さらに自分の個人蔵書まで売り払ったとはいえ、彼は依然として知識と知恵の宝庫であり続けることでしょう。私は彼の友情を大切にしてきましたし、今後もずっとそうであることを期待しています。

ポール、これまで研究者として、友人として、お付き合いくださりありがとう。あなたが今後どんな道を歩むにせよ、ますますの発展をお祈りしています。」

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心優しきトゥルーディー。
こういう人と人のつながりも羨ましいですし、チラッチラッと出てくる固有名詞にも豊かな滋味を感じます。天文古書が体現している、古き良き天文趣味の世界。やっぱり私は明るいディスプレイよりも、埃っぽい紙束の方が性に合っている気がします。