フランス星座早見事情(後編)2014年05月03日 10時05分17秒

フランスにもあった星座早見の逸品とは?
(以下、他人様のものを勝手に紹介させていただきます。いずれ様もどうぞご勘弁を。)

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まず目を驚かす品。
昨日の記事に出てきた星座早見は、フラマリオン監修、G.トマ発行の品でした。私の個人的見立てでは1920~30年代のもの。

ところが、同じフラマリオン&トマのコンビで、既に19世紀末に星座早見盤が作られていたことを知りました。2007年11月にロンドンで開かれたボナムス社のオークションに出品されたものです。それが下の画像。

(出典:http://www.bonhams.com/auctions/15617/lot/128/ 周囲の木枠のようなものは、パイン材で作られたオリジナルの箱)

一見ふつうの星座早見ですが、驚くのはそのサイズ。
なんと56センチ四方という堂々たる体躯です。新聞紙の上下が54.5センチだそうですから、それを上回る巨大な早見盤。これほどの大きさになると、当然頭上に持ち上げて実際の星空と対照して…という使い方はできないでしょうから、おそらく卓上デモンストレーション用に使ったのではないでしょうか。詳細は不明ですが、写真で見る限り、こちらは中の円盤を回すタイプのようです。

星座早見界の異端児ともいえるこの怪作、落札価格は528ポンド、現在のレートで約9万1千円。相対的にはリーズナブルな価格だと思いますが、もちろん絶対的には高いですね。

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次いで古い品を。
天文アンティークに力を入れているニューヨークの George Glazer Gallery で現在販売中(@1800ドル)の下記の星座早見。作られたのは1839年といいますから、私の手元にあるフラマリオンの早見盤よりも更に100年近く前のものです。

(画像の勝手貼りをすると怒られそうなので、サムネイルサイズでイメージだけ紹介。詳細は下記リンクを参照)

Planisphère Mobile Simplifié
Charles Dien Celestial Planisphere, Paris: 1839
 
http://www.georgeglazer.com/maps/celestial/dienplanisphere.html

以下、上記ページから摘録します。

作者のシャルル・ディアン(1809-1870)は天文家にしてグローブ製作者。同名のお父さんも球儀制作にかかわっていましたが、このシャルルは息子の方。彼はフラマリオン(1842-1925)よりも1世代上になりますが、フラマリオンと組んで大判の星図帳『Atlas Céleste』(初版1865)も出しています。

ディアンの業績でいちばん有名なのは、星図における星座表現に革新をもたらしたことで、彼はそれまでの伝統的な星座絵を捨て、主要星を直線で結び、星座のアウトラインだけを簡略に示す方法を編み出しました。現代の星図では非常にポピュラーな手法ですが、その元祖こそシャルル・ディアンで、上で取り上げた星座早見にもそれが応用されています。

そして、この星座早見も47センチ×38センチというジャンボサイズ。
どうもフランスの人は大きいものが好きなのか、実用という観点からものを考えなかったのか、いずれにしても逸品には違いありませんが、これでは一般に普及しなかったのも当然という気がします。

(ディアン(著)、フラマリオン(改訂増補)の『Atlas Céleste』 第5版/1884年。高さ51センチと、これまた巨大な星図帳。) 

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昨日の記事に「パリの暇人」さんからいただいたコメントによると、同氏のお手元には一層古い1779年刊のフランス製星座早見が所蔵されている由。となると、フランスを「星座早見後進国」とけなしたのは私の不見識で、むしろフランスは星座早見のパイオニアであり、個々の「住人」の大きさからしても、「星座早見の巨人国」と呼ぶのが相応しいようです。

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さて、連休中はちょっと小旅行に出かけるので、その間記事の更新はお休みします。
皆さま、よい休日を。

コメント

_ パリの暇人 ― 2014年05月04日 05時51分11秒

ああ FENET/FLAMMARIONの大型星座早見の事だったのですね。この出版社THOMASのものは再版で初版はBERTAUX社から出ています。両方とも所有していますが、初版の方は非常に珍しいです。 
DIENの星座早見にはもう一つ八角形型のものもあります。
なお 所有はしていませんが 私の知る限り現存する最も古い星座早見は169O年頃アムステルダムで出版されたVOOGHT作のものでです。

_ 玉青 ― 2014年05月04日 07時11分18秒

再びの長嘆息です。
フランスの星座早見の奥深さを知るとともに、パリの暇人さんの超絶コレクションに盃を挙げさせてください。アドラーでも、グリニッジでも、一館でそれだけの早見盤を収蔵しているところは、ひょっとしてないんじゃないでしょうか。例によって、いずれその一端なりとも眼福にあずかれれば幸いに存じます。

>現存する最も古い星座早見

己の無知を恥じるばかりですが、改めてWarnerのVoogdio(Vooght)の項を見て、成程と思いました。これまた実に堂々たる姿!そして現代の星座早見の直系の祖先と呼ぶにふさわしい品ですね。(注:これをご覧の他の方へ。以下でそのイメージを見ることができます。http://www.robkattenburg.nl/en/notable-sales/hasebroek-hemels1.php

星座早見界の「巨人」の系譜も興味深いので、資料が揃えば「大きさ十傑」とかやってみたいです。(^J^)

_ S.U ― 2014年05月04日 12時02分09秒

 ヨーロッパ伝統の星座早見は、天球儀にも共通する威厳がありますね。

 星座早見について日頃から関心に思っていることについて、この際、2つほど質問させて下さい。

 中央の北極部分をハトメで裏板に止めるのが、星座早見の多数派で誰でも思いつく工夫だと思いますが、四角い枠内に円盤を閉じ込めてハトメを用いないタイプのものもありますね。これはどこのどなたの発明なのでしょうか。

 それから、100年ほど前のフランスといえば、東南アジア、西アフリカ、南米の低緯度地方に植民地がありましたが、そういう地方用の星座早見というのは出ていませんでしょうか。

_ パリの暇人 ― 2014年05月05日 01時17分49秒

玉青さま
星座早見の「大きさ十傑」、面白そうですね。 
ちなみに 当コレクショで大きなものというと 1)フランスのHAGUENAU作の直径約61cmの星座早見(183O年代) 2)アメリカ製の9Ocm x 59cmの物(189O年代、太陽・月などの図が入っていて巨大なのですが...) 3)フランス製の星座早見盤用星図(19世紀)で直径約68cm。いつか星座早見に組み立てたいと思っています。 などでしょうか。

_ パリの暇人 ― 2014年05月05日 04時27分04秒

S.U 様

枠内に円盤を閉じ込めるタイプのもので 私のコレクツョン中一番古いものは 182O年頃のパリ製の星座早見でAUDIN社というところから刊行されました。著者名は無く DELAMBREの一教え子が計算した星の位置を用いたとあります。

186O年頃ル アーヴルで刊行されたGIOT作の星座早見は裏面が南天星座早見になっています。 他に19OO年頃パリで出版された星座早見
は低緯度でも使えるようになっていますが 部屋の何処かに埋まってい見つかりません。

_ S.U ― 2014年05月05日 22時38分59秒

パリの暇人様、ありがとうございました。

 ハトメなし閉じ込め方式は意外と昔からあるのですね。面白いアイディアなので特許にならなかったのかと思いますが、そんなに古いなら早々に独占の期限が切れたかもしれませんね。ドランブルは、天体観測で地球の大きさと形の精密測量をした人だと思うので、その伝統は星座早見にふさわしいと思いました。

 私は緯度が10度以下の地方の星座早見はあまり見たことがないので、現代の物はあって当然でしょうから、特に古いものを見てみたいと思っています。

_ 玉青 ― 2014年05月07日 21時54分35秒

○パリの暇人さま

うわ、どれもすこぶる付きの巨人ぞろいですね。
星座早見は基本的に星図のヴァリエーションとしてあるのでしょうから、大きな星図が流行った時代には、星座早見も必然的に大きかったということかもしれませんね。

○S.Uさま

ご質問の点はパリの暇人さんからのコメントで氷解と思いますので、私からは特に書き込むことはないのですが、以前地球上のどこでも使えるユニバーサル星座早見の話題があったように記憶しています。時代的に特に古いものではありませんが、近々記事で紹介してみようと思います。

(こちらで恐縮ですが、協会掲示板へのご投稿ありがとうございました。ハーシェルの音楽評、じっくり読ませていただきました。)

_ toshi ― 2014年05月08日 02時33分27秒

お久しぶりです。VooghtのplanisphareですがロンドンのDanielCrouchで売っています。先ほど現物を見てきましたが、開くと大きいですね。

_ S.U ― 2014年05月08日 07時42分01秒

>ユニバーサル星座早見
 確かに、外国旅行用の異国の空の星座早見でしたら、ユニバーサルを1つ入手しておくのが便利ですね。電気コンセントの変換器を選ぶようなセンスでしょうか。

 もし、今後、フランス領インドシナ用とか西アフリカ用とかいうようなのが見つかればぜひお教え下さい。

 ハーシェルの音楽については、玉青さんや協会の方々には「釈迦に説法」ですが、我々の同好会の人やクラシック音楽ファンの目にとまれば嬉しいと思います。

_ パリの暇人 ― 2014年05月09日 01時00分23秒

Daniel CrouchのVooghtの星座早見は もとはオランダのAsherが売りに出していたもので 4OO万円程でしたが Crouchのところでは13OO万円に高くなってしまいました。 Crouchの最新のCatalogue VIには その星座早見やDÜrer星図など貴重品が6O点売りに出ています。15£+送料(日本迄は1O£)で入手出来ます。

_ 玉青 ― 2014年05月09日 23時09分19秒

○toshiさま

お知らせありがとうございます。
ネットで検索したら、パッと出ました。しかも2つも。
いやあ、あるところにはあるんですねえ。
お値段がまた何とも素敵で、ゼロを2つ取ってもまだ高く感じるので、私には絶望的に縁がありませんが、それでもこうして画像をしげしげ見られるだけでも幸せなことです。

○S.Uさま

今だったらスマホ1つで用が足りますが、昔の人の創意工夫には頭が下がります。
必要は発明の母、というのは確かに真実らしく思えます。

○パリの暇人さま

どうもいかなる品も、パリの暇人さんの目は逃れ難いようですね。
古物業界の裏面もお教えいただき、ありがとうございます。
物の価値について、しばし沈思しました。
まあたとえ400万円にしても、縁がないことに変わりはないんですが、でもカタログだけなら何とかなるかも…

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