サロンを見下ろす青い石2014年05月23日 06時58分31秒



ごちゃごちゃした散文的な部屋の一角に、場にそぐわない詩的なものがあります。


今年の2月に、名古屋のAntique Salon さんで購入した不思議な鉱物額。
深紅のビロード地に、青や碧の石たち(藍銅鉱、孔雀石、珪孔雀石、方曹達石…)が散りばめられ、大きなメダイヨン形の額に収められています。額の長径は約42cm。

この品は、昨年初めてお店にお邪魔した際、一見して深く印象に残ったのですが、そのときは売り物ではなく、店舗用什器だと思いました。あまりにもお店の空間と一体化していたからです。でも、その後HPで商品として紹介されているのを知り、思わず買いに走ったのでした。(その顛末はこちら


額の下の方に「1908」の金属製の切り文字が貼られています。

では、この品は1908年に生まれたのか?
それがこの品の謎の1つですが、よく目を凝らすと、紅いビロード地には、かつて別のものが貼られていた痕がうっすらと見えます。


すなわち誰かのイニシャルらしい「VG」と「BV」、さらに「1908」「6 DECEMBRE」の文字。そして、それらを取り囲む曲線の痕も見えます。
漠とした想像ですが、かつてここには、1908年12月6日に結婚記念日を迎えた、ある夫婦の記念の品が額装されていたのではないでしょうか。

では、それを転用して、青い石を配したオブジェを作り上げたのは、いつ、誰の仕業なのか? 作者は「VG & BV」夫妻と、どんな関係なのか? 彼/彼女は、どんな思いに駆られてそうしたのか? ―上の想像が当たっているとして、それらもまた大きな謎です。もし私の筆が冴えていたら、これをネタに小説の一本も書くところですが…。
(時代に関しては、鉱石が「にかわ」質の材料で接着されていることから、少なからず昔に属するように思います。)

いずれにしても、磨き立てた石ではなく、あえて原石を配し、博物趣味あふれる美しい作品に仕上げた、この無名の作者の手際は見事だと思います。

   ★

この鉱物額は、かつてAntique Salon さんの店内を、不思議な表情で彩っていました。
そして、それ以前もフランスのどこかのサロンで、鉱物の秘密に関わるひそかな会話を聞いていたような気がしてなりません。