英国の愛苔者2014年06月14日 09時05分48秒

苔を愛でるのは日本人ばかりでなく、ヴィクトリア時代の英国の人もずいぶん苔に入れ込んでいました。当時、博物趣味の対象にならなかった自然物はない(らしい)ので、身近にあって変化に富む苔の一群は、うってつけの観察対象だったのでしょう。
下はそんな当時の人々の苔趣味が横溢した美しい図鑑。


(苔の本ですが、なぜか表紙は百合の花)

■F. E. Tripp
 British Mosses. Their Homes, Aspects, Structure and Uses.
 『英国産苔類 その生育地・外観・構造・用途』
 George Bell (London), 1888 (new edition)
 四折判、全2巻 (130p + 171p)

日本のB5判とほぼ同じサイズの2巻本なので、けっこうなボリュームです。
手彩色石版による37枚の図版を含みます。


かわいらしい苔のリースが縁取るタイトルページ。


これは図鑑ですから、こういういかにも図鑑的なページもありますが、


こういう妙に余白の多いページもあります。


上図の一部を拡大。
対象が苔だけに、とにかく絵が細かいです。


中には1ページに一種という極端な例もあって、おそらくこの本の各図版は、台紙に貼り付けた標本をイメージして描かれているのだと思います。


「第4節 コケ類の収集と調べ方」冒頭。
ワーズワースの詩が麗々しく掲げられているところが、いかにもヴィクトリア時代(ほかの節も同様に詩文の引用があります)。


繊細で美しい苔の世界。

ヴィクトリア時代はその仰々しさと瑣末主義において、ときに現代人の嘲笑の対象ともなりますが、こういうものを一般の人も等しく愛好したことは悪くないですね。まことに繊細な心根だと思います。