天象唱歌…海上でふり仰ぐ星(1) ― 2014年07月14日 18時16分07秒
ここのところ、ちょっと文学づいているので、今日は星を詠みこんだ歌の話。
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今更ですが、賢治に「星めぐりの歌」という作品があります。
彼自身が作詞作曲した歌で、以下がその全文。
あかいめだまの さそり
ひろげた鷲の つばさ
あをいめだまの 小いぬ、
ひかりのへびの とぐろ。
オリオンは高く うたひ
つゆとしもとを おとす、
アンドロメダの くもは
さかなのくちの かたち。
大ぐまのあしを きたに
五つのばした ところ。
小熊のひたいの うへは
そらのめぐりの めあて。
あまりはっきりしませんが、おそらく大正の後半、1920年代前半の成立と思われる作品です。
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それを遡ること半世紀。まだ賢治さんも生まれていない、明治7年(1874)に出た「天文歌(てんもんのうた)」というのを、以前ご紹介したことがあります。(http://mononoke.asablo.jp/blog/2010/05/17/5092600)
仰いで天(そら)を眺むれば
蒼々(そうそう)として限なし
是を大虚(たいきょ)といふぞかし
空闊至虚(くうかつしきょ)に見ゆれども
清澄稀微(せいちょうきび)の遊気(ゆうき)有り
<以下略>
…云々という、まことに時代がかった文章ですが、幼童に向けて天文基礎知識を説いたものです。
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さて、今日の本題は、「天象唱歌(てんしょうしょうか)」という本です。
先日、古書店で見つけたのですが、お金を出して買うまでもなく、国会図書館の近代デジタルライブラリーで簡単に全文読めますから、興味のある方はご覧下さい。
http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/855605
B6判、13ページ、針金綴じのごく簡易な小冊子です。
副題は「一名二十四時間星めぐり」。
奥付を見ると、初版が明治45年(1912)に出た後、翌年(大正2年、1913)までに4回版を重ねています。この冊子は「師範学校音楽科用/中学校唱歌科用」をうたっているので、ひとたび学校で採用されると、まとめて売れたのかもしれません。
作詞者は「大分県士族」にして「甲種船長」である小野謙太郎氏。当時は大阪在住で、その伝は未詳ですが、国会図書館の蔵書目録によれば、この『天象唱歌』に先立ち『海図実地応用問題』という本を明治35年(1902)に出しています。
序文の中で小野船長は
「一葉の天図は内に在っては家庭団欒の話柄となり、一歩戸外に出づれば満天に開陳して、星辰歴々視顧の中に実現し、時々刻々と活動変転す。其の言ふ可からざる快楽の中、海事思想の一要素を涵養せんこと、是著者の以て希望する所なり」
と述べています(表記を一部改めました)。すなわち、星の美を知り、同時に海事思想の涵養を図ろうというのが、本書の目的です。
航海のため、昔の船員さんには星の知識が不可欠でしたから、小野船長もそういう立場から星に親しみ、それを若い生徒に伝えるため、作詞に手を染めたのでしょう。
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というわけで、大海原と満天の星の取り合わせに、いやが上にも期待が高まりますが、その中身はどうか?
(この項つづく)
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