我、突沸す。2014年07月19日 09時50分52秒

突沸という現象がありますよね。
加熱していた液体が、突然沸騰して危ないという。

仕事をする上でもやはり突沸があります。
そして、危険なことにかけては、液体の突沸以上のものがあります。
ここ2日ばかり沈黙していたのも、やはりそれでした。

これはどうにかしたいものだ…と思って、まず突沸の正体を知ることにしました。
定石通りウィキペディアの記述を見たら、意外なことにウィキには現在「突沸」の項目がなくて、それは「沸騰石」の項目↓に包摂されていました。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B2%B8%E9%A8%B0%E7%9F%B3

より簡にして要を得た記述は以下。

■突沸と沸騰石:化学屋の呟き(by 梧桐鳳翼さん)
 http://hyper-chemistry.blog.so-net.ne.jp/2013-03-21

いずれにしても、キーワードは「過熱状態」です。
液体が沸点以上まで加熱されたところで、液体→気体の相転移が始まると、その高い蒸気圧によって気泡の爆発的膨張が生じ、周囲の液体を飛び散らせる…それが突沸の正体なのでした。
言い換えれば、突沸の前提に「過熱状態」があるということで、これは仕事上の突沸に当てはめても、非常によく分かります。突沸を経験する人は、見た目は平常通りでも、それ以前にすっかり煮詰まっていたわけです。

いっぽう沸騰石のキーワードは「気泡」。
沸騰石は固有名詞ではなく、いろいろな素材のものがありますが、いずれも多孔質であり、過熱されるとそこから微細な気泡が発生し、その気泡が相転移を促す(その核となる)ことによって、液体が過熱状態になることを防ぐのが役割。
したがって、過熱状態のところに沸騰石を入れると、逆に突沸を誘発して、非常に危険であることも分かりました。

「微細な気泡が核となって相転移を促す」とは、どういう仕組みによるのか、そもそも相転移が生じる瞬間に、ミクロの世界ではいったい何が起こっているのか、その説明はたぶん私の理解を超えると思いますが、たいへん興味深いことです。
宇宙の創生も、仕事上の突沸も、この突然の相転移の問題が絡んでいるのかもしれませんね。そして、後者については、その予防のために、「仕事上の沸騰石」をぜひ見出したいところです。

   ★

ところで、沸騰石って何となく懐かしい響きがありますが、そもそもいつからあるのかな?と思って調べてみたら、ケンブリッジ大学の次のページに行き当たりました。

http://www.hps.cam.ac.uk/people/chang/boiling/stones_more.htm

これによると、沸騰石というアイデアが生まれるきっかけになったのは、金属粉やガラス粉を入れておくと、ガラス器内の温度が有意に低下するという、ゲイ=リュサック(1778-1850)の実験で、19世紀末までに沸騰石の利用は技術者・科学者の間で一般化していたと書かれています。

Hasok Chang氏による、上のページを含む全体のコンテンツは、「沸点という神話」という刺激的なタイトルが付いていて、「水は100度で沸騰するというのは単なる神話だ!」と断じていますが、沸騰という見慣れた現象も、考え出すとなかなか奥が深いですね。

The Myth of the Boiling Point
 http://www.hps.cam.ac.uk/people/chang/boiling/

   ★

さらにまた、「突沸」をキーワードに国会図書館のデータベースで文献を探していたら、全国味噌技術会という団体が発行する『味噌の科学と技術』という雑誌に、安平仁美氏らによる「みそ汁の突沸」という論文が載っているのを知りました(1986年10月号, pp.337-340)。

味噌汁の突沸もさることながら、『味噌の科学と技術』という<味噌雑誌>があったことにも驚きました。まこと世に科学の種は尽きまじ。

   ★

「キミ、忙しいっていいながら、結構ヒマなんじゃないの?」と思われるかもしれませんが、なかなかそうでもないのですよ。
見た目では分からないのが「過熱状態」の恐ろしいところです。

コメント

_ S.U ― 2014年07月20日 11時12分47秒

 「沸騰石」は学校の理科実験で1~2度使ったことがあるかな、という程度です。日常生活でも効用のあるものでしょうか。味噌汁の突沸について、テレビの朝の家庭向けニュースで気をつけるよう言うのを聞いたように思います。対処法についてどう言ったかは憶えていません。

_ 玉青 ― 2014年07月20日 12時33分42秒

あれ、記事を投稿したら即座にコメントが。
シンクロニシティですかね(笑)。

私も沸騰石を実際に実験のときに使った記憶がありません。
まあ試験管程度なら、カシャカシャ揺すりながら加熱すれば実害はない気もしますし、味噌汁も「お玉」でときどき混ぜてやれば全然OKじゃないでしょうか。仕事でもカシャカシャやってれば、OKな場面が多いと思います。(積み上がった仕事を横目にじっとしていると、突沸が起きやすいです。)

_ S.U ― 2014年07月20日 16時33分50秒

>カシャカシャ揺すりながら加熱すれば

なるほど。そうすると、沸騰石を使った方がいい(あるいは使わざるを得ない)のは、

・密閉容器が複雑なリービッヒ管のようなもので連結されていて、構造的に攪拌が出来ない場合

・液体自体が危険物を含有していて、万が一にも内容物の漏洩や噴出が許されない場合

などの場合に絞られそうですね。

 仕事の「カシャカシャ」もしたいのですが、このトシでカシャカシャをやると手元がくるって仕上げが失敗しそうです。

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