結晶海に漕ぎ出す(7)…ブラベー格子(後編の上)2014年08月16日 14時33分15秒

(お盆で間が開きましたが、前回の続きです。)

私にとって数学の出てくる話は何であれ難しく、ブラベー格子も例外ではありません。
ただ、ブラベー格子の場合、それ以外の難しさがあるように思います。

ブラベー格子のことを本で読んでいて思うのは、説明図がとにかく分かりにくこと。
それぞれの書き手が、工夫を凝らしているのは伝わってくるんですが、すぐに頭の中で線が入り乱れて、ごっちゃになってしまいます。

ああいうのは「概念そのものが高度で難解」というよりも、3次元図形を2次元で図示したり、それを頭の中で3次元に復元したりという、「入り口部分の難しさ」が大きいんじゃないでしょうか。言ってみれば、内容は単純でも、ドイツ語で言われると難しく感じるようなものです。脳内で3次元イメージを操作する能力は、個人差が大きいそうですが、平均的な人にとって、ブラベー格子の説明図は、かなり難しい部類に入ると思います。

ですから、こんなブラベー格子の模型↓を見つけて、こういうのを手にして説明を聞いたら、とても分かりやすいんではないかと思いました。

http://www.helago-cz.cz/en/product/set-14-bravais-lattices/

いや、実際本気で注文しようかとも思いましたが、税抜き価格で597ユーロ(約8万2千円也)と聞いて断念。でも、これって粘土と竹ひごで簡単に作れそうですね。

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上の模型を見ると、ブラベー格子は、いわゆる分子模型にそっくりですが、前回も書いたように、ブラベー格子は、分子や原子の実際の配列を表現しているわけではありません。

前回のβマンガンの模型もそうでしたが、結晶中の原子・分子の配列は、多くの場合、もっとゴチャゴチャ・ウネウネしているものです。しかし、そこに見られる繰り返しのパターンに注目して、そこに格子状の網をかぶせると、全体の構造がすっきり見やすくなる…というのが格子説のポイントでした。
格子はあくまでも、結晶の分子配列に潜んでいる「パターン」を視覚化したものです。塩化ナトリウムのように、実際の分子の配列が、ストレートに格子の形と重なる場合もありますが、それは少数派です。

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その格子のマス目1つが「基本単位格子」であり、ブラベー格子はその形を14種類に分類したものです。で、これまでのところでは、格子のイメージとして真四角(立方体)をイメージしました。

実際、真四角なブラベー格子の一群があります。
「立方格子」の仲間で、全部で3種類。

(「等軸格子(isometric lattice)」とも呼ばれます。でも何だか難しげなので、ここでは「立方格子」の称を採ります。)

いちばん左側のがベーシックな立方格子で、「立方単純格子」と呼ばれます。
ちょっと数学っぽく、下のように3次元座標を作って、たて・よこ・高さの3軸をa、b、cとし、それぞれの面がなす角度をα、β、γとすれば、立方格子は、a=b=cで、四隅はどこをとっても全て直角、すなわちα=β=γ=90°です。


この立方格子をズラッと並べると、結晶が備える構造パターンが浮かび上がります。具体的な鉱物種でいうと、「立方晶系(等軸晶系)」の鉱物がそれで、肉眼的にも立方体の形をとる岩塩とか、蛍石とか、黄鉄鉱は、まさに「原子の世界が肉眼化した」例ですね。

(真四角のスペイン産の黄鉄鉱)

(カクカクした中国産の蛍石)

それらの鉱物が、ときに正四面体や正八面体の結晶にもなるわけは、格子のワイヤーはあくまでも仮想的なものであり、実体がないからです。
つまり、生身の結晶は、この仮想の線に沿って割れたり、成長したりする「義理」はなくて、条件によっては斜めにサクッといくこともあります(図には表現されていませんが、個々の基本構造は、斜め方向にある他の基本構造とも手を取り合っていることに注意してください)。

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「ズラッと並べる」というのは、数学的に言えば、基本単位格子を「平行移動」することであり、「並進操作」と呼ばれます。そして、出来上がった格子全体を眺めると、そこには基本単位格子1個分の距離ごとに、全く同じ形が出現しています(同じものを並べたのだから当たり前です)。立方晶系の結晶構造は「並進対称性を有する」わけです。
さて、そこで先の図の右側の2つ、「立方体心格子」、「立方面心格子」とは何ぞやということになります。

(再掲)

「体心」、「面心」とはまた耳慣れない言葉ですが、英語の「body-centered」、「face-centered」の直訳で、立方体の真ん中にもう1つ小球(基本構造)を置いたのが体心、6つの各面の中心に小球を置いたのが面心です(1の目ばかりのサイコロを想像してください)。

何でこういうものを考え出したかというと、「立方体心格子」と「立方面心格子」は、「立方単純格子」にはない並進対称性を有するからです。

ここから先は、私の言語能力と作図能力では説明不能ですが、要は、立方体心格子や、立方面心格子を並べると、基本単位格子1個分ずれた位置に加え、0.5個分ずれた位置にも、全く同じ形が出現するということです(元の角っこが新たな体心・面心になり、元の体心・面心が新たな角っこになります)。

何を言っているのか、自分でも分かりにくいですが、ノースカロライナ大学の Mark McClure 氏による下の動画をご覧いただくと、これまでの整理にもなってよろしいかと思います(4:05~5:20に注目)。

■Lattice Structure Part 1
 
https://www.youtube.com/watch?v=Rm-i1c7zr6Q

(この項つづく。次回完結編)