結晶海に漕ぎ出す(8)…ブラベー格子(後編の下) ― 2014年08月17日 08時28分55秒
さて、後はサラッといきます。
立方格子を縦に(高さ方向に)引き伸ばしたのが「正方格子」。単純と体心の2種。
立方格子を縦に(高さ方向に)引き伸ばしたのが「正方格子」。単純と体心の2種。
対応する鉱物は、正方晶系の魚眼石、ルチル、灰重石など。
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さらに上底・下底の正方形も崩して、3辺の長さがばらばらの直方体にしたものが「斜方格子」。
斜方格子には、単純、体心、面心のほかに、「底心(base-centered)」というのが仲間に加わります。6つの面のうち、上底と下底のみ真ん中に基礎構造を付け加えたもの。
対応するのは斜方晶系の霰石、重晶石、葡萄石など。
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ここで言葉にこだわる人(=私)のために補足。
▼斜方形というのは、いわゆる「ひし形」のことです。斜方格子のどこにもひし形は出てこないのに、なぜそういう名称になったのか?
▼それと、上の図で「斜方単純~」だけ、英語名が「orthorhombic~」で、あとは「rhombic~」になっているのはなぜか?
後の問は簡単で、私が見た本がそうなっていたからです。でも、体心・面心・底心も全部「orthorhombic~」とするソースもあるので(たとえば英語版Wikipedia)、この辺は結構ゆるい感じです。
問題は前の問。
「orthorhombic」は「ortho(正~、直~)+rhombic(斜方形の、ひし形の)」 という意味の合成語。日本語訳は、このうち「rhombic」の部分だけ取り出して、「斜方~」としたから分かりにくいのでした。
でも、さらにさかのぼると、この単語は「pseudoorthorhombic」という、いかにも長ったらしい、今は廃語となった用語の簡略形なのだそうです。
(←参照 http://en.wiktionary.org/wiki/orthorhombic)
となると、原意は「pseudo(偽の)+ortho(正~、直~)+rhombic(斜方形の、ひし形の)」、すなわち「直角ひし形もどき」の意味となり、斜方形とはますます意味が離れていきます。
本当は「直方格子」とか「長方格子」とすればいちばん良いのでしょうが、この辺はもう歴史的に如何ともしがたいところです。
本当は「直方格子」とか「長方格子」とすればいちばん良いのでしょうが、この辺はもう歴史的に如何ともしがたいところです。
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あれ、変だなあ。
何がだい?
立方、正方、斜方の3つの格子の関係ってさ、斜方格子の特殊なパターンが正方格子だよね?
無限にバリエーションのある斜方格子のうち、たまたま「a=b」なのを正方格子と呼ぶ、と考えればな。
さらにそのうち、たまたま「a=b=c」になったのが立方格子だから、集合関係でいえば、「斜方格子 ⊃ 正方格子 ⊃ 立方格子」だよね。
うん、そうなるかな。
制限条件を強めることで、新たな並進対称性が生まれるなら話は分かるけど、実際には減っちゃうわけだ。つまり、斜方格子なら「体心・面心・底心」の3パターンいけたのに、正方格子になると「体心」だけになっちゃう。でも、それが立方格子になると、また「体心・面心」に増える。…いったい何がどうなってるんだろう?
「底心の立方格子と正方格子、面心の正方格子は何故ないのか?」
…うん、もっともな疑問だな。でも、別にないわけじゃないよ。たとえば、「立方底心格子」だってちゃんと図に描ける。でも、それって「ちょっと小ぶりの正方単純格子」と等価だから、独立したネーミングを与えるまでもないわけさ。他のもよーく考えてみるといいよ。まあ、俺はまだ考えてないけどな(笑)。
(上から見た「立方底心格子」の集合。点線のように結べば、実は「正方単純格子」と等価だと分かります。なお、上底と下底は小ぶりになりましたが、高さは元と変わらないので、これは立方ではなく、正方格子です。)
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ここまでは、四隅がすべて直角でしたが、全体を斜めにクイッと傾けるパターンもあります。
斜方格子を一方に傾ければ「単斜格子」。
鉱物でいうと単斜晶系の孔雀石、石膏、氷晶石など。
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更にクイックイッと傾けて、四隅からすべて直角をなくしたのが「三斜格子」。
三斜晶系には曹長石、ばら輝石、灰長石などが属します。
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さて、残る2つが、「六方格子」と「菱面体格子」なんですが、ブラベー格子の中ではいちばん分かりにくい連中です。
六方格子の名の由来は、これを3つ集めると六方形(六角柱)になるから…らしい。
で、この辺から徐々に雲行きが怪しくなるのですが、どうもこの両者は、単純な並進対称性の話題に加えて、回転対称性の話題が加わるらしく、説明を凝視したのですが、正直よく分かりませんでした。
そして、晶系との対応も、他と違ってごちゃごちゃしています。
六方格子はもちろん六方晶系の鉱物に対応しますが、でもそれだけでなく、三方晶系の鉱物にも一部対応し、他方、三方晶系の鉱物には、菱面体格子のものもあり…という具合。ちなみに水晶は三方晶系の代表ですが、格子は六方格子だそうです。
そもそも上図の菱面体格子は、何だか意味不明で、作図を間違えているんじゃないか…と疑っていますが(この図は拾い物で、文字だけ私が貼り付けました)、でも、あまり自信はないので、そのままにしておきます。
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というわけで、分からないところも依然多いですが、最初の頃に比べれば、ブラベー格子に一寸は親しみを感じられるようになったので、天文古玩的にはこれで十分です。
不明の点はあっさり諦めて、ブラベー格子の話題は、そろそろこの辺でお開きにしましょう。
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