Oui, temmon-coganique !2014年09月11日 17時53分38秒

最近、ちょっと天文濃度が下がっていますね。
以前も書きましたが、天文アイテムの弱点は、星そのものを剥製にしたり、ピン留めしたりすることができないために、結局、紙モノばかりになってしまう点です。

もちろん、決して手に触れることのできない点が、星の貴いところであり、「素手でベタベタさわれるような、下界の俗物どもと一緒にしてくれるな」と、天上の星は澄ましているかもしれず、そんな星にべた惚れという天文ファンも多いでしょう。
が、こと蒐集の愉しみという点では、天文ファンは、鉱物や動・植物マニアの後塵を拝していることは否めません。

もちろん天文ファンにも蒐集欲はあるわけで、わりと多くの人は、天体写真の撮影に励んで、画像が集積することに満足を見出す道をたどります。また、機材マニアとなって、山のように機材を買い込む人もいます。(その一方で、純粋に星を眺め、宇宙と向き合うことに喜びを感じる、ピュアというか、シンプルなファンも少なからずいます。)

私の場合は、それが天文古書や、星図や、星にまつわるあれこれの蒐集に向かいました。これは畢竟、星に対して古人が抱いた想念の蒐集なのかもしれません。だから、物理的に言えば、それらは頼りない紙に過ぎないとは言え、本当はその向こうに立ち現われる想念こそが大事であって…

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と、ここまで書いたところで筆が止まりました。

上の言い分はウソではないにしろ、紙モノにもやっぱりモノとしての魅力はあるんじゃないか…と思い直したからです。おそらくその両方(想念とモノ)の魅力を兼ね備えたところに、天文古玩の魅力はあるのでしょう。

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さて、前置きが長くなりましたが、いかにも「天文古玩的」な品ってありますよね。
(フランス語で言うと、temmon-coganique で、これは普通の辞書には載ってませんが、大きな辞書を見てもやっぱり載ってません。)

私の勝手なイメージで言うと、下のような本を見ると「おお、テンモンコガニーク!」と声を上げたくなります。


■J. J. von Littrow,
 Wunder des Himmels. 『天界の驚異』
 Hempel Verlag (Berlin), 1886.

 

1200頁を超える分厚い本で、背表紙のデザインも存分に凝っています。


本文はドイツ語だし、しかも亀甲文字で、内容は理解しがたいですが、中身はそれほど美麗というわけではありません。巻末に10葉の石版の図版が付いているのが、見どころと云えば見どころですが、その多くは類書から引っ張ってきたものです。

とはいえ、この装丁は手放しで称賛したくなります。

(三方の小口にマーブルが入っています。)


岩山の上にぽつんと立つ観象台。
ここに暮らす老碩学は、雷光、虹、夕映えといった低層の気象現象とともに、


遠い遠い星の世界を、ひとり観測し続けている…というイメージを、この表紙絵は伝えているのでしょう。素敵なイメージです。