壜詰め一本勝負…貨幣石2014年11月01日 10時05分28秒

11月の初日は冷たい雨の降る、暗い日となりました。でも、心はかえって静かです。
ちょっとビジュアル的に変化に乏しいですが、今日も一本勝負でいきます。


ユーカリに続く壜の中身は貨幣石


コイン状の扁平な殻をもった巨大な原生動物の化石です。
沖縄土産の「星の砂」と同じ有孔虫の仲間で、今からおよそ5000~3000万年前の古第三紀に栄えました。


破れたラベルに書かれた文字は、

  「天皇陛下行幸ノ….. 
   献上セラレシ品ト…...
   殿木氏寄贈」

時代ですね。まさに時代というほかありません。
ネット情報によれば、貨幣石献上云々は、昭和天皇が昭和2年(1927)、小笠原諸島の母島を訪れて、生物採集を試みた際のエピソードのようです(その貨幣石の産する海岸が、現在「御幸之浜」と呼ばれている由.)。殿木氏の何者たるかは謎。

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ところで貨幣石の本体(殻の中で生命活動を司っていた細胞体)って、どんな姿なんだろう?と思って検索しましたが、途中で「そうか、それは永遠に謎だったな…」と気づきました。たしかに現生の有孔虫を見て、その姿を想像することはできます。しかし、その実物を見た人はいませんし、これからも見ることはないでしょう。

(…と、断言するのも危険で、クラゲの化石が見つかっているぐらいですから、ひょっとして貨幣石のヤワな本体が、何らかの痕跡をこの世に残している可能性はあります。)

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それにしても、化石になりうる殻も、骨も、歯も持たず、そして現生の子孫も残っていないために、人間の知識の埒外にいる生物ってどれぐらいいるんでしょう?
何せ人間の知識の埒外というぐらいですから、カウントのしようもありませんが、宇宙における暗黒物質のごとく、それが予想を超えて多い可能性はないのでしょうか。

壜詰め一本勝負…黒の微晶2014年11月02日 08時33分20秒



今日の一本勝負はこのひと壜。


中にはサラサラと黒く、ところどころキラキラ光る物質が入っています。
その正体は錫鉱石。この場合、産状が砂状なので「砂錫(さすず)」と呼ばれます。


これは例の女学校の先生の自採ではなく、業者から購入したもので、「岩本鉱物販売所」のラベルが付いています。産地は、岐阜県東部の恵那郡苗木。このあたりは昔から鉱物の種類が豊富な土地らしく、お隣の中津川には中津川市鉱物博物館http://www.city.nakatsugawa.gifu.jp/museum/)が開設されています。

以下はウィキペディアの「錫石」の項より、ほぼ全文。

 錫石(すずいし、cassiterite)は、鉱物(酸化鉱物)の一種。化学組成は酸化スズ(IV) (SnO2)で、スズの重要な鉱石鉱物。
 金紅石(ルチル、TiO2)と同じ結晶構造を持ち、しばしば複雑に双晶する。
 熱水鉱脈、ペグマタイトなどに産する。風化に強くて比重が大きいため、砂礫中に砂錫(さすず)として産することもある。また、珪化木のような木目模様を持つ木錫(もくしゃく)としても産する。
 産地としては、イギリスのコーンウォール、ボリビア、マレー半島などが有名。日本では明延(あけのべ)鉱山(兵庫県)、木浦鉱山(大分県)、錫山鉱山(鹿児島県)などが挙げられる。また、国内の砂錫産地としては岐阜県の恵那・中津川地方で明治~昭和初期まで採掘されていた

最後の一文が、この壜の中身を指していることは言うまでもありません。
明治~昭和初期と、こと錫に関しては、時代的にかなり限定された産地だったようです。


まあ、中身もさることながら、このラベルの表情がいいですね。
標本の科学的価値を決めるのはラベルだよと、よく言われますが、さらに標本の審美的価値をも左右する重要な存在だと感じます。

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ときに錫について。

金属加工技術の伝来が遅かったせいか、日本語には金属に関する語彙がきわめて乏しく、金・銀・銅・鉄といった基本的な金属も、すべて「かね」の一語で済ませています(必要に応じて、こがね、しろがね、あかがね、くろがねと、色名で呼び分けるだけです)。かろうじて固有の名前があるのは、「すず」と「なまり」ぐらいでしょう。

錫と鉛が固有名を持つのは、人々の生活にそれだけ身近だった証拠で、それは両者の融点が低く、製錬や加工が容易だったからだと想像します(錫は232℃、鉛は327℃。ちなみに他の4つは、金=1064℃、銀=962℃、銅=1085℃、鉄=1538℃)。

青銅は銅と錫の合金ですが、それ以前に、錫単体を利用する文化が、日本にはあったのかどうか? 下のページによると、確かに錫製品は、あちこちの古代遺跡から出土していますが、時代的にはせいぜい弥生中期以降のもので、青銅器時代以前にさかのぼるものはなさそうです。その辺がちょっとモヤッとします。

スクラップBOX (8): 冶金の曙
 http://www.geocities.jp/e_kamasai/zakki/zakki-9.html

「かね」が「鐘」であり、「すず」が「鈴」に通じるのは、単なる偶然なのかどうか?
能登半島の先端にある「珠洲」の地名に、錫は一見無縁のようでありながら、同地の須須神社に「金分宮」が特に祀られているのはなぜか?

…というようなことを面白おかしく脚色すると、偽史が1冊書けるかもしれません(星野之伸さんの「宗像教授シリーズ」みたいですね)。

標本ラベルが語るもの2014年11月03日 08時49分40秒

快晴。文化の日はいわゆる「特異日」の1つだそうですが、こうきれいに雨が上がると、ちょっと妙な気分になります。

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さて、昨日の記事で標本ラベルの話が出たので、連想で話を続けます。

先日…といっても9月のことですが、名古屋のantique salon さを訪ねた際のことです。店頭に置かれた商品について、いろいろお話を伺った際、薄緑色の紙製小箱に入った、大量の鉱物・化石標本(アンモナイト)に、たまたま談が及びました。

それらは、店主の市さんが一括してフランスで買い付けされたもので、出所・来歴が今ひとつ明瞭ではないものの、全体の様子からすると、とても素人の手慰みのコレクションとは思えない、いったいこれは何だろうか…そんな話になりました。

「それに、こんなものがいっぱいあるんですよ」と見せていただいたのが、大量の標本ラベルです。上記の緑の小箱には、それぞれラベルが貼付されていますが、それとは別に、途中で標本とはぐれたらしいラベルがたくさんあって、それだけでちょっとした一山ができています。


「うーん、これは調べれば何か分かるかもしれませんね」と言って、お借りしてきたのが上の3枚。こういうことには、わりと熱中する性質なので、家で検索三昧した顛末を、市さんにメールで報告した内容が以下。

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さて早速ですが、例の化石のラベルの件、どうやら分かりました。


まず、Nで始まる読みにくい人名は、René Nicklès(1859-1917)で、フランス語版ウィキペディアにも出てくる、立派な地質学者です(http://fr.wikipedia.org/wiki/Ren%C3%A9_Nickl%C3%A8s)。

それによると、ニクレは1893年からはナンシー大学理学部で地質学講師を務め、1899年には助教授に任ぜられたとあります。また1890年から94年にかけて、スペイン産の白亜紀のアンモナイトを研究していたともあって、あの標本の素性はいよいよ確かなもののようです。


そしてもう一人のAuthelinという人物についてですが、ニクレには『Charles Authelin, 1872-1903, ses travaux scientifiques シャルル・オテラン(1872-1903)、その科学的業績』(1904)という著作があり、この人物に相違なかろうと思います。

オテランは、1901年の以下の紀要論文にその名が見えますが、そこでは「ナンシー大学理学部助手(préparateur à la Faculté des sciences de l'Université de Nancy)」の肩書になっており、たぶんニクレの下で研究していたのでしょう。そしてニクレは、この若くして亡くなった弟子をいたんで、上記文集を編んだのだと思います(http://documents.irevues.inist.fr/bitstream/handle/2042/28625/ALS_1901_3_21.pdf?sequence=1)。

ともあれ、あの標本群は、箱やラベルも含めて、非常に素性のよい、学問的に貴重なものと思います。どなたか専門の方に引き取られるのが一番いいのでしょうが、なかなか悩ましいところですね。

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上の最後の一文は、この標本を購入する人がなかなかいなくて…という、市さんの嘆きに答えたものです。問題の標本は、同店の販売ページ(↓)でも一部紹介されていますし、まだ在庫はたくさんあると見受けましたので、「博物学全盛期の本当に本物の学術標本」を欲する方は、購入を検討されて良いのではないでしょうか。

specimen(標本)antique salon


(あいつは、antique salon に幾らかつかまされたんじゃないか…と邪推される方がいるかもしれませんが、そんなことはありませんよ。でも、結局3枚のラベルは、そのまま私の元に来ました。だとしても、利益相反には当たりますまい。)

夜のフヴェン島2014年11月04日 07時02分59秒



ティコ・ブラーエ(1546-1601)の観測拠点があった、デンマークのフヴェン島(現・スウェーデン領)の古地図の額に、電球が反射していたという、ただそれだけの写真。

なぜ、わざわざカメラを構えて、ブレた写真を撮ったかといえば、島に灯りがともって、一瞬そこに生気が甦ったように感じられたこと、そして、写り込んだ2個の電球が、この島にあった彼の2つの観測施設、ウラニボルグ(天空の城)シュテルンボルグ(星の城)を思い起こさせたことによります。


地図の片隅に描かれた、ウラニボルグの威容。


グーグルマップで上空から見たら、今もその跡地がくっきり残っていて、ちょっと嬉しい気がしました。(私はもっと広壮な城館を思い浮かべていたんですが、周囲の家屋と比べると、意外にささやかな印象も受けます。それでも物差しを当てると、一辺が125mぐらいありますから、それなりに大きいです。周囲の家もみな大きいのでしょう。
→◆訂正:目盛りを読み違えてました。再度測ったら、83mぐらいでした。)

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ティコ・ブラーエの命日は10月24日なので、若干記事にするタイミングが遅かったですが、誕生日の方は来月の14日にやってきます。


【付記】 北欧の地名は表記が難しくて、ウィキペディアだと「ウラニボルグとシュテルンボルグ」は「ウラニボリとステルネボリ」と書かれています。ここでは耳になじんだ書き方をしました。なお、「フヴェン(Hven)島」は、現在は「ヴェン(Ven)島 」と読み書きするそうです。

アルビレオ出版社の快挙(1)2014年11月05日 07時07分03秒

アルビレオ出版は、ドイツのケルンにある、小さな個人出版社です。
設立は2013年、すなわち昨年出来たばかりの若い会社ですが、間もなく還暦を迎えるカール=ペーター・ユリウス社長の本職は、なぜか弁護士さん。で、出版事業は何となく余技のようでもあります。


Albireo Verlag 公式サイト: http://albireo-verlag.org/Albireo-Verlag/Willkommen_1.html

そのユリウス氏が出版社を立ち上げてまで執念を燃やしているのが、古星図アトラスの復刻事業で、現在そのラインナップは2冊。

1冊は、ゴールドバッハフォン・ツァハ男爵が生み出した漆黒の『最新星図帳』(1799)。(Christian Friedrich Goldbach & Baron Frantz Xaver von Zach,
Neuster Himmels-Atlas, Weimar, 1799)

そしてもう1冊は、今秋出たばかりのドッペルマイヤーの華麗な『天界図譜』(1742)です。(Johann Gabriel Doppelmayr, Atlas Coelestis, Nürnberg, 1742)

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そもそもの出発点が趣味に発しているせいか、ユリウス氏は、採算をハナから度外視しているように見受けられます。少部数限定の完全復刻版であることを考えると、この2冊はいずれも至極廉価で、ゴールドバッハは119ユーロ、ドッペルマイヤーは198ユーロと、円安の今でも3万円を切る値段です。これで儲けが出るかは一寸疑わしい。(さらに言うと、ゴールドバッハについては注文と同時に、すなわち金を払う前に本を送ってくれました。嬉しかったですが、余所ながら心配になりました。)

そして、その復刻にかける情熱たるや、既に尋常ならざる域に達していると思えるので、奇人伝的視点から、この本の細部に目を向けてみます。

(この項つづく)

アルビレオ出版社の快挙(2)2014年11月06日 06時59分40秒

快漢にして怪漢、カール=ペーター・ユリウス氏の情熱を感じるべく、まず、最新刊であるドッペルマイヤー星図の方から見てみます。


これが全体像。高さは54cmと、とにかく巨大な本です。新聞紙並みの大きさです。

装丁は背と角を革で仕立てた、いわゆる「四分三(しぶさん)装」。地紙の部分は、復刻に際して使用した原本とそっくり同じになるよう、それを写真撮影して印刷したものを貼り込んでいます(紙のかすれは印刷で再現されたものです)。

要するに、この復刻版は、中身だけでなく、表表紙から裏表紙に至るまで、忠実に原本を再現するよう配慮されているのです。


製本は中央がフルオープンできるようになっているので、肝心の中心部が綴じ目に入って見えないということがありません。これも原本にならったものでしょう。これだけでも、相当コストがかかっているはずです。

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ドッペルマイヤーの星図帳そのものは、非常に有名な本なので、「Doppelmayr Atlas」で画像検索していただければと思いますが、以下、イメージ程度にハラリと開いてみます。





ここでは上の最後のページに注目して、気になる印刷精度を、強拡大画像で確認します。

(この項、もう少し続く)

アルビレオ出版社の快挙(3)2014年11月07日 21時19分09秒

昨夜は帰りが遅くなりました。
23時を過ぎ、南上りの坂道を登っていたら、正面に彼がいました。
冬の王者、オリオン。いよいよ彼の季節がやってきました。

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昨日の画像再掲。
太陽系を描いた図ですが、この中心部を拡大します。


この画像の左右は約55mm、中央の太陽の直径は約5mmです。


さらに拡大。この画像はおよそ左右18mm。ここまで拡大すると、印刷のドットが見えてきますが、もちろん肉眼では識別できません。


別の彩色部。原図の左上に当たります。この画像の左右は約80mm。
もちろん原本は見たことがないのですが、そしてまた私の写真の拙さもありますが、印象としては良くニュアンスが再現されていると思います。

そして、これは重要な点ですが、マットな紙なので、そこに非常にリアリティが伴います。どんなに精細な印刷でも、ツルツルの紙では興醒めでしょう(まあ、精細に再現するためにツルツルな紙を使用しているのでしょうが)。
何というか、これが画集や図録であれば、それでもいいのです。むしろツルツルの紙の方が、モダンな美術館の冷たい床を思わせていいぐらいです。しかし、「モノとしての本」を再現しようするときには、この紙のテクスチャーの要素は非常に大きな問題で、それによって本の存在感がまるで違ってきます。


図版ページの裏面。紙の表情が出ています。


同じく裏面。この星図帳は、要するに1枚ずつ独立した版画を、二つ折りにして綴じたものなので、図版ページの裏はそれぞれすべて白紙になっています。ユリウス氏は、ここでも手をゆるめることなく、原本の汚れ、しみ、裏写り、手ずれの跡を印刷で完璧に再現しています。

元の図に戻って、今度は線刻部を見てみます。


右下に見える天使の一部拡大。画像サイズは、左右約28mm。


こちらは天使の隣に微笑む女神。同じく約32mm。

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どうでしょう、これだけ再現できていれば、少なくとも私にとっては十分です。
最美の星図アトラスが、こうしてリーズナブルな価格で楽しめることは、本当に嬉しいことで、この偉業を成し遂げたユリウス氏に、この場を借りて、改めて敬意と感謝を捧げます。

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支払いはpaypalで可。ユリウス氏への連絡や質問は英語でOKです。

四天王の共通点2014年11月09日 07時54分03秒

世の中に美しい星図集はあまたあれど、その筆頭は何といってもアンドレアス・セラリウス『大宇宙の調和 Harmonia Macrocosmica』(1660)に指を屈します。これは大方の異論のないところでしょう。とにかく美麗の一語に尽きます。
それに次ぐのがドッペルマイヤー『天界図譜』(1742)で、両者がいわば美星図界の横綱・大関。

(セラリウス『大宇宙の調和』。以下画像は全て拾い物)

とはいえ、星図の価値はビジュアル面の美しさだけで計れるものではなく、恒星の位置をいかにたくさん、いかに正確に表示するかというところに、本来の目的はあるので、そういう点で上記2著は一段評価が低くなります(一般の嗜好に投じるものではあっても、専門家の座右に置かれるものではない、という位置づけでしょう)。

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星図研究家の Nick Kanas氏によれば、古星図の世界には「Big Four」と呼ばれる存在があるそうです。いずれも学問的価値、歴史的なユニークさ、そして後世への影響において周囲から抜きんでた存在で、日本語でいえば差し詰め「星図四天王」。それは以下の4冊です。

〇ヨハン・バイエル(Johann Bayer、1572-1625)
『ウラノメトリア Uranometria』(1603)

〇ヤン(ヨハネス)・ヘヴェリウス(Jan [Johannes] Hevelius、1611-1687)
『ソビエスキの蒼穹―ウラノグラフィア Firmamentum Sobiescianum, sive Uranographia』(1687)
(注1)

〇ジョン・フラムスティード(John Flamsteed、1646-1719)
『天球図譜 Atlas Coelestis』(1729)
(注2)
※書名はドッペルマイヤーと同じ。ここではフラムスティードの方は『天球図譜』、ドッペルマイヤーの方は『天界図譜』と呼び分けることにします。

〇ヨハン・ボーデ(Johann Elert Bode、1747-1826)
『ウラノグラフィア Uranographia』(1801)

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画像をパクったりして、ちょっと節操がないついでに、これらの星図がいくらぐらいするのか、下世話な興味から古書検索サイトやオークションレコードに当たってみました。

ざっと見たところ、バイエル4万ドル、ヘヴェリウス8万ドル、フラムスティード4万ドル、ボーデはよく分かりませんでしたが、やっぱりウン万ドルはするのでしょう。ついでにセラリウスは12万ドル、ドッペルマイヤーは4万ドルという感じでした。
まあ、実際の売り買いはお宝鑑定団のような訳にはいかず、値段は常に水物ですが、いずれにしても安くはありません。いや、ずいぶんとお高いです。

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ところで、「四天王」にはその歴史的・経済的な価値以外に共通するものがあります。
作者全員が、聖ヨハネの名を負っているのに気づかれましたか?
ヨハン・ドッペルマイヤーもまた然り。まあ、実際多い名前なんでしょうけれど、こうズラリ並ぶと壮観ですね。ヨハネはよほど星に縁があるのでしょう。

そして、ヨハネのイタリア語形はジョヴァンニ…。
(と、無理やり話にオチを付けました)。

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【注1】 ソビエスキというのは、ヘヴェリウスを支援したポーランドの王様の名前で、書名は彼に献じられたものです。なお、本書は『ヘベリウス星座図絵』のタイトルで、地人書館から復刻版が出ていますが、底本としたのは、ウズベク共和国科学アカデミーが、タシケント天文研究所の所蔵本を1968年に復刻したものなので、いわば「復刻版の復刻版」になります。

【注2】 刊年がフラムスティードの死後になっているのは、没後に未亡人が刊行したためで、ヘヴェリウスの『ソビエスキ…』も事情は似ています。本書も『フラムスチード天球図譜』の名で、恒星社厚生閣から復刻版が出ていますが、こちらも底本となったのは原書そのものではなく、1776年にパリで「第2版」と銘打って出版されたものです(編者の名を取ってフォルタン版と呼ばれます)。フォルタン版は、オリジナルを3分の1に縮小したもので、星座のレイアウトは一緒でも、図像表現の細部が異なります。また、星座名の表記がラテン語からフランス語に変更されています。フォルタン版はいわば普及版なので、古書価も一桁違います。

黒い星図…ゴールドバッハ『最新星図帳』(1)2014年11月11日 07時11分17秒

アルビレオ出版の偉業のつづき。

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ゴールドバッハの星図を、最初本で見たとき、思わず引き込まれました。
私は「黒地に白」の星図がなぜか好きで、ゴールドバッハは、その理想形のように感じたからです。(2006年1月、このブログの最初の記事が、ダンキンの『真夜中の空』だったことを思い出します。http://mononoke.asablo.jp/blog/2006/01/23/223693
ですから、復刻版ではあれ、その全体を手元に置けると知ったときは、本当に小躍りする程嬉しかったです。


クリスチャン・ゴールドバッハ、『最新星図帳』(1799)
(Christian Friedrich Goldbach , Neuster Himmels-Atlas, Weimar, 1799)

25×30cmの横長の本です。ちょうどA4を横にして、それを幅広にしたサイズですから、ドッペルマイヤーの星図に比べると、ずっとコンパクトですが、その存在感は決して劣るものではありません。

ちなみに、クリスチャン・ゴールドバッハというと、「ゴールドバッハ予想」(2より大きい偶数は、すべて2つの素数の和として表わせる)で知られる、ドイツの数学者がいますが(生没は1690-1764)、その人とは別です。星図作者の方は、1763年に生まれ、1811年になくなったドイツの天文学者で、モスクワで教鞭をとった人。

以下、その中身を見ていきますが、まずは版元のサイトから拝借した、下の画像をご覧ください。


天文フェアの会場で、オリジナル(下)と復刻版(上)を並べて展示しているところです。
「どうだ、区別が付くか?」という、ユリウス氏のドヤ顔が思い浮かぶではありませんか。

(この項つづく)

黒い星図…ゴールドバッハ『最新星図帳』(2)2014年11月12日 07時03分17秒

まずは本の顔である、表紙から眺めます。



こちらもドッペルマイヤーと同じく、背と角を革装にした体裁です。
ただし、こちらは地紙がマーブル紙ではなく、クロス(布)。

―といっても、これはそう見えるだけで、復刻版はキャメル色の革風紙と、青碧のクロス風の紙でそれを再現しています。クロス風の紙は、これまたオリジナルを写真撮影してプリントしたものですが、現物をルーペ片手に精査するのでない限り、これを画像で見ている方にとっては、もはや何が実で、何が虚かお分かりにならないでしょう。


また、すべて印刷で済ませているわけではなく、中央の標題を記したラベルは、別に刷ったもの貼り付けてあります。こういうところが非常に凝っています。


天と花布の表情。


そしてタイトルページ。

(次回、星図とその細部を見ます。この項つづく)