四天王の共通点2014年11月09日 07時54分03秒

世の中に美しい星図集はあまたあれど、その筆頭は何といってもアンドレアス・セラリウス『大宇宙の調和 Harmonia Macrocosmica』(1660)に指を屈します。これは大方の異論のないところでしょう。とにかく美麗の一語に尽きます。
それに次ぐのがドッペルマイヤー『天界図譜』(1742)で、両者がいわば美星図界の横綱・大関。

(セラリウス『大宇宙の調和』。以下画像は全て拾い物)

とはいえ、星図の価値はビジュアル面の美しさだけで計れるものではなく、恒星の位置をいかにたくさん、いかに正確に表示するかというところに、本来の目的はあるので、そういう点で上記2著は一段評価が低くなります(一般の嗜好に投じるものではあっても、専門家の座右に置かれるものではない、という位置づけでしょう)。

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星図研究家の Nick Kanas氏によれば、古星図の世界には「Big Four」と呼ばれる存在があるそうです。いずれも学問的価値、歴史的なユニークさ、そして後世への影響において周囲から抜きんでた存在で、日本語でいえば差し詰め「星図四天王」。それは以下の4冊です。

〇ヨハン・バイエル(Johann Bayer、1572-1625)
『ウラノメトリア Uranometria』(1603)

〇ヤン(ヨハネス)・ヘヴェリウス(Jan [Johannes] Hevelius、1611-1687)
『ソビエスキの蒼穹―ウラノグラフィア Firmamentum Sobiescianum, sive Uranographia』(1687)
(注1)

〇ジョン・フラムスティード(John Flamsteed、1646-1719)
『天球図譜 Atlas Coelestis』(1729)
(注2)
※書名はドッペルマイヤーと同じ。ここではフラムスティードの方は『天球図譜』、ドッペルマイヤーの方は『天界図譜』と呼び分けることにします。

〇ヨハン・ボーデ(Johann Elert Bode、1747-1826)
『ウラノグラフィア Uranographia』(1801)

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画像をパクったりして、ちょっと節操がないついでに、これらの星図がいくらぐらいするのか、下世話な興味から古書検索サイトやオークションレコードに当たってみました。

ざっと見たところ、バイエル4万ドル、ヘヴェリウス8万ドル、フラムスティード4万ドル、ボーデはよく分かりませんでしたが、やっぱりウン万ドルはするのでしょう。ついでにセラリウスは12万ドル、ドッペルマイヤーは4万ドルという感じでした。
まあ、実際の売り買いはお宝鑑定団のような訳にはいかず、値段は常に水物ですが、いずれにしても安くはありません。いや、ずいぶんとお高いです。

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ところで、「四天王」にはその歴史的・経済的な価値以外に共通するものがあります。
作者全員が、聖ヨハネの名を負っているのに気づかれましたか?
ヨハン・ドッペルマイヤーもまた然り。まあ、実際多い名前なんでしょうけれど、こうズラリ並ぶと壮観ですね。ヨハネはよほど星に縁があるのでしょう。

そして、ヨハネのイタリア語形はジョヴァンニ…。
(と、無理やり話にオチを付けました)。

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【注1】 ソビエスキというのは、ヘヴェリウスを支援したポーランドの王様の名前で、書名は彼に献じられたものです。なお、本書は『ヘベリウス星座図絵』のタイトルで、地人書館から復刻版が出ていますが、底本としたのは、ウズベク共和国科学アカデミーが、タシケント天文研究所の所蔵本を1968年に復刻したものなので、いわば「復刻版の復刻版」になります。

【注2】 刊年がフラムスティードの死後になっているのは、没後に未亡人が刊行したためで、ヘヴェリウスの『ソビエスキ…』も事情は似ています。本書も『フラムスチード天球図譜』の名で、恒星社厚生閣から復刻版が出ていますが、こちらも底本となったのは原書そのものではなく、1776年にパリで「第2版」と銘打って出版されたものです(編者の名を取ってフォルタン版と呼ばれます)。フォルタン版は、オリジナルを3分の1に縮小したもので、星座のレイアウトは一緒でも、図像表現の細部が異なります。また、星座名の表記がラテン語からフランス語に変更されています。フォルタン版はいわば普及版なので、古書価も一桁違います。