パラドックス・オーラリー(2)2014年11月30日 07時37分19秒

このオーラリーの特徴は、月球そのものは省略されていて、代わりに月の公転軌道がリングで表現されていることです。そして、それが地球の公転面(黄道面)を示すリングと微妙にずれて取り付けられています。昨日も書いたように、その角度は5度余り。


斜めから見るとこんな感じ。
各パーツが何を意味しているかを書き込んだのが下の図です。



このオーラリーは、慣習に従って北が上なので、地球の公転は反時計回りになります。


把手を持って回すと、太陽を中心に地球がグルグル。それにつれて、月の公転軌道を示すリングもゆっくり回転を始め、結果的に白道面と黄道面が接する交点の位置もゆっくり移ろっていきます。さらに、月の遠地点の位置も、それとは異なるペースで回転を始めます。

結局、このオーラリーが視覚化しているのは、地球の公転と、それに伴う月の交点と遠地点の位置変化です(交点が問題になるのは、交点が太陽と同一視線方向に来た時に、日食が起きるからです)。ここでの主役は月です。そして、昨日のテルリオンでは表現できなかった情報を表示できる優れものである一方、月本体の位置や、地球の自転は捨象されています。



全体の動きを制御するのが、この三連歯車。
このオーラリーの構造は、ある意味とてもシンプルです。何十個も歯車を連ねた、いかにもクロックワーク然とした機械仕掛けが、そこに仕込んであるわけではありません。むしろ、これだけの部品数で上記の天体現象を表現しおおせた点に、ファーガソンの独創性を認めるべきでしょう。

ところで、このオーラリーは「パラドックス・オーラリー」と呼ばれます。
何がパラドックスかといえば、すべての動きが共通の三連歯車で制御されているのに、地球の自転軸の向きは常に天の両極を指し不動、他方、交点の位置は時計回りに変化し、さらに遠地点の位置は反時計回りに変化する…というふうに、相矛盾した動きを見せるからです。

もちろんその秘密は、三連歯車の1つ(上の写真だと左端のもの)が、相互に独立した3段重ねの歯車から出来ており、それぞれの歯数が違うため、回転速度に相対的遅速が生じるためですが、そうとは知らずに見ていると、なんだか不思議な気がします。


パラドックス・オーラリー(3)2014年11月30日 11時44分52秒

先ほどS.Uさんからコメント欄で、サロス周期がこのオーラリーで検証できるのでは?とご提案いただきました。

サロス周期というのは、昔から知られている日食周期で、時間にすれば18年と10日ちょっと。すなわち、ある日・ある場所で日食が見られたとすると、それから約18年後に、ほとんど同じ欠け具合、同じ継続時間の日食が見られるという観測事実を指します(ただし日食が見られる場所は変ります)。
これは太陽・地球・月の位置関係が、この周期で同一になることの反映で、だったら、このパラドックス・オーラリーを18回まわしてやれば、同じ表示が現れるのでは…というのがコメントのご趣旨でした。

で、さっそくやってみたのが、下の写真です。


左はX年1月1日、右はX+18年1月12日の表示。
予想通り、だいたい同じになっていますね。

微妙にずれているのは、写真の角度の問題もありますが、天体現象を単純なメカニズムでシミュレートすることの限界も示しています。このオーラリーは、適当なギヤ比を設定することで、天体の運動を再現しているわけですが、現実に製作可能な歯数は限られるので、そこに誤差が生じるのは避けられません。まあ、この装置は計算用ではなく、デモンストレーション用のものですから、この程度の再現性で十分なのでしょう。

ちなみに↓はX+5年1月1日、↓↓はX+10年1月1日の表示です。