土星キャラ立ち史(序論)…カテゴリー縦覧:土星編 ― 2015年03月14日 14時43分37秒
( 「土星だ」 「あんな所でサボッてやがる」 「いや たまには休息だって必要さ」
たむらしげるさんの「冬のコンサート」より。単行本『水晶狩り』所収)
たむらしげるさんの「冬のコンサート」より。単行本『水晶狩り』所収)
土星は天界の人気者。クシー君やタルホ氏の好伴侶でもあります。
でも、土星はいつから人気者になったんでしょうね?
でも、土星はいつから人気者になったんでしょうね?
土星の観測史については、多くの本に(Wikipediaにも)書かれていますが、土星の文化史、つまり文学や絵画、ポップカルチャーの中で、土星がどう扱われて来たかというのは、たぶん研究した人もいるのでしょうが、寡聞にして私は知りません(月に関しては、そういう本が結構あります)。
今のところ何も手がかりがないですが、一寸気づいたことをメモ書きしておきます。
★
著者不詳の『The Wonders of the Telescope』(1823)という、ロンドンで出た本があります。天文趣味の本としては、ごく早期に属する本で、天界の見所を分かりやすく紹介した、文庫本サイズの可愛らしい本です。
その中の土星に関する章を見ると、冒頭近くに、イギリスの博物学者 Henry Baker(1698-1774)の「The Universe」という詩の一節が引かれています。
Farthest and last, scarce warm'd by Phoebus' Ray,
Through his vast Orbit Saturn wheels away.
How great the Change, could we be wafted there !
How slow the Seasons ! and how long the Year !
Through his vast Orbit Saturn wheels away.
How great the Change, could we be wafted there !
How slow the Seasons ! and how long the Year !
ベーカーの在世中は、天王星の発見前ですから、まだ土星が最遠の惑星で、そこはろくすっぽ日の光も差さぬ暗い世界であり、その巨大な軌道を、土星がゆっくりゆっくり回っていく様を詠んだもののようです。
『The Wonders…』の著者は、土星の輪の発見を、ガリレオから説き起こし、それが現在(19世紀初め)においても、依然として天界最大の謎の1つであり、それが一定の位置にあり続ける理由や、組成については皆目分からないながらも、おそらくは輝く雲状の物質であるか、あるいは、同一平面上に並んだ無数の衛星ではないか…という推論に言及しています(結局、後者が正解だったことを我々は知っています)。
(素朴な土星の挿絵が、三つ折りになって綴じられています)
そして、その輪についても、スコットランドの劇作家、David Mallet (c.1705-1765)という人の「The Excursion」という詩を引いて、文飾を施しています。
―― even here the sight Amid these doleful scenes new matter finds
Of wonder and delight ! a mighty ring !
Of wonder and delight ! a mighty ring !
暗く寂しい、太陽系の果てに輝くもの、それがあの壮麗な環だ!というわけです。
そしてまた、先のベーカーの詩の続きが、ここで引用されます(当時は詩文の引用が、科学書でも常套でした)。
そしてまた、先のベーカーの詩の続きが、ここで引用されます(当時は詩文の引用が、科学書でも常套でした)。
One Moon on us reflects its cheerful light ;
There, seven attendants brighten up the night ;
Here, the blue firmament bedecked with stars ;
There, over head, a lucid Arch appears.
There, seven attendants brighten up the night ;
Here, the blue firmament bedecked with stars ;
There, over head, a lucid Arch appears.
地球には月が1つしかないのに、土星には7つもある。その7つの月が輝く上に、さらに頭上には巨大な輪があって、まばゆいアーチを描いている。だから、土星から見た世界は、決して暗くも、寂しくもないんだ…というわけでしょう。
★
18世紀人は、土星の輪に強い関心を示し、それをいろいろ詩に詠んでいたことが分かります。探せば、他にももっと例は見つかることでしょう。
土星の輪が、多くの衛星とともに、暗い土星を明るく照らすというイメージは、フランスのフォントネル(Bernard Le Bovier de Fontenelle, 1657-1757)の大ベストセラー『世界の複数性についての対話』(初版1686)に由来するのではないかと思います。
フォントネルは我々の住む地球以外にも、生命はあらゆるところに存在可能であり、もちろん土星にだって人間が住んでいておかしくはない。そこは太陽からきわめて遠いが、その衛星と輪の照り返しが、その難点を補ってくれるに違いない、自然は何と上手くできているのだろうか…というような論を展開しています。
(この項、尻切れトンボでいったん終わります。今後もそのつど材料は挙げていきます。)
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