天空の色彩学(その3)…カテゴリー縦覧:恒星編2015年03月27日 22時37分26秒



『天空色彩学』に収載された、いろいろな二重星の色彩についての表を見てみます。

(上の表の一部拡大)

左はベッドフォードカタログに載った、1830~40年代前半の観測成果に依るもの、右は同じ対象を1850年代の観測ではどのように記述しているかを、スミス自身が比べたものです(中央はイタリアのセスティーニによる記述)。

まあ、50年代でも相当に想像力豊かと思われるかもしれませんが、それでも

「ライラック」「紫がかった色」に、
「ヴァイオレット」「くすんだ青」に、
花紺青(スマルト・ブルー)」はただの「青」に、
「トパーズ・イエロー」「赤みを帯びた黄色」に、
「淡い空色」「灰色」に、

…と、より抑えた表現になっていることが分かります。
天界の花園や果樹園、宝石箱が失われたことを悲しむ人も多いでしょうが、科学の言語としては、そうならざるを得なかったことも理解できます。

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そして、スミスが最終的にたどりついたのは、標準色表を使う方法でした。


これを使えば、

おとめ座17番星は、「明るい薔薇色とくすんだ赤」から「赤の4と赤の3」に、
うしかい座エプシロン星は、「薄いオレンジと海緑」から「オレンジの3と緑の4」に、
うみへび座デルタ星は、「明るいトパーズと鉛」から「黄色の4と紫の3」に、

一層客観的に記述できると、スミスは考えましたが、この方法を全天で貫徹する時間は、もう彼には残されていなかったらしく、これは一種の提案にとどまりました。

   ★

ところで、前回述べたような次第で、私は本文の内容をあまり理解していないのですが、一つ面白いと思ったのは、スミスが星の色について「実験」を繰り返していたことです。「実験」といっても、別に難しいものではありません。同じ二重星を人々に見せて、各自がどんな言葉でその色を表現するか確認するという、シンプルなものです。

たとえば、1829年6月のある晩、彼は10人の客を、自邸の南に設けたポーチコ(柱廊)へと導きました。そこには石製の台座が置かれ、口径5.5インチ(14センチ)のグレゴリー式反射望遠鏡が載っていました。望遠鏡は、二重星として知られる「コル・カロリ(チャールズの心臓、の意)」、すなわち「りょうけん座α星」に向いており、客人は一人ずつそれを覗き、他の客には聞こえないよう、その色をスミスに耳打ちする…という手順で実験は行われました。

「いや、まったく分からん!」と、早々に降参した一人の男性を除き、他の6人の御婦人方、3人の紳士、そしてスミス自身を加えた10人が、そこでどんな答を出したか?
そして、さらに興味深いもう1つの実験とは?

一寸もったいぶって、結果は次に回します。

(この項さらに続く)