水辺の絵日記(1)…カテゴリー縦覧:理科系古書編2015年04月26日 18時23分25秒

季節柄、何か爽やかな本を読みたいと思いました。
そこで本棚から見つけたのが下の本。


■ジャネット・マーシュ(著)、大庭みな子(訳)
 『ジャネット・マーシュの水辺の絵日記』
 TBSブリタニカ、1986

 (1991年に版元を阪急コミュニケーションズに替えて、新装版が出ました。)

イングランドの田園地帯の自然を、1年間の絵日記形式で綴った美しい本です。
原題は『Janet Marsh’s Nature Diary』といい、ロンドンの出版社から1979年に出ています。(著者のジャネットは1953年生まれですから、本書は著者26歳の作ということになります。その落ち着いた語り口から、私はもう少し年かさの人を想像していたので、それを知ったときはちょっと驚きました。)

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まずは、その舞台を確認しておきます。


ロンドンから西南西に100km、イギリス海峡沿いに開けた街がサウサンプトンで、今ではロンドンとM3ハイウェイで結ばれています。


そのサウサンプトンから、M3ハイウェイでちょっとロンドン方向に戻ったところに、ウィンチェスターの町があります。


ウィンチェスターの町を拡大すると、細かい水路がうねうね走っているのが見えますが、これらを総称して「イッチェン川」と言います。19世紀に鉄道が通るまでは、重要な水運経路として、この川を多くのはしけが行き来しました。

このイッチェン川の流れをさかのぼると、ウィンチェスターの北で川筋は東に屈曲し、その南岸にイーストンの村があります。ここがジャネットの絵日記の舞台です。


小さな教会がひとつ、宿屋が一軒という、本当に小さなコミュニティです。


同じ範囲を上空からの写真で見るとこんな感じ。


さらにその左上の一角を拡大。
この約500メートル四方の緑に輝く空間が、かつて彼女のフィールドでした。


36年前、ジャネットが絵日記を書いた頃と比べると、今もその様子は驚くほど変っていないように見えます。


つましいセント・メアリー教会が水辺に影を落とす、静かな村。

この土地の自然を、一人の女性が透徹した目で観察し、記録したのが本書です。
その静かな文章と正確なスケッチは、まさに『セルボーンの博物誌』の衣鉢を継ぐ、イギリスのナチュラリストの正系に連なるものと感じられます。

(この項つづく。次回はその内容を一瞥します。)