生薬・秘薬・毒薬(2)…カテゴリー縦覧:医療・薬学編2015年05月20日 07時14分01秒

さて、生薬の箱の中身です。


蓋を開けると、さらにボール紙製の箱があって、1から7までの番号シールが貼られています。そのキッチリ感も大層よくて、様々な大きさの箱が、この番号の順に化粧箱に入れていくと、最後にピタッと収まります。


手前の6番、7番の箱には、可愛らしい小壜が上下2段になってぎっしり。


中層の3番、4番、5番の箱には、スマートな中壜が、


いちばん下の1番、2番の箱には、ズシッとした大壜が並んでいます。


次々に現れる秘薬、生薬。


個々の壜の表情も、いかにも妖しの気配です。

No.74の扁平なのはホミカ、局方名はSemen Strychini。
生薬の本を参照すると、植物名はStrychnos nux Vomica L.で、産地は東インド。漢名は番木鼈または馬銭子。その味は頗る苦く、健胃薬として用いられる一方、毒性の強いストリキニーネの原料ともなるため、局方上、劇薬扱いです。

その隣の不定形なNo.12は五倍子(‘ごばいし’又は‘ふし’)。局方名は Galla。
ウルシの仲間であるヌルデの木に、アリマキの一種が寄生することで出来る「虫こぶ」を薬に用いるものです。書物には「味極メテ収斂性ナリ」とありますが、主成分はタンニンで、ものすごく渋いらしいです。それにしても、こんな妙ちきりんなものにまで有用性を見出すとは、人間の探求心の何と旺盛なことか。


小壜たちもそれぞれに、それぞれの表情。
右端に見えるNo.89の鉱物状のものは、サンダラック(Sandaraca)。アフリカ産の松柏類の一種からとれる樹脂で、特に薬効はありませんが、硬膏の原料とされます。
なお、番号シールの代わりに直接名称が記載された標本壜は、局方生薬以外のものです。


どうですか、この「ズラッと感」。

(画像再掲)

東大の生薬標本↑と較べるのは僭越ですが、でも「驚異の部屋」にかける気概は、おさおさ劣るものではありません。(それに、時代がかって見える東大のセットも、震災後の大正末期~昭和戦前に購入されたものらしく、歴史性においても、そう大きな隔たりはありません。)


コメント

_ S.U ― 2015年05月20日 20時30分02秒

これは、博物館というよりは、どちらかというと時代劇に出てくる「薬種問屋」という感じですね。
 ところで、今から20~30年ほど前、大都会には、古くて暗い木造の薬種問屋様の漢方薬の店舗があって、木の根っこの乾かした物やら得体の知れぬ動物様の物やらがテーブルの上に載っており、店の中には抽斗が床から天井近くまでずらっとあったように思いますが、最近はとんと見ません。あれは幻だったかもしれないと思います。今でもあるでしょうか。(ひょっとすると、中華街の食材店と混同しているかもしれません。)
 現在の日本で、ああいう薬種問屋があるとすると、薬事法、薬剤師法でいうとどうなるのでしょうか。薬剤師がそこで調剤して売るしかないのでしょうか。ああいう固まりを素人が買って、徳川家康よろしく自宅で薬研でごりごりやるのは違法でしょうか。
 江戸時代は、医師免許も薬剤師免許もなかったと聞いていますが、「薬事法」(薬品の検査と販売の取り締まり)はあったそうです。(Wikipedia「和薬種改会所」)

 いつもながら妙な質問ですみません。

_ 玉青 ― 2015年05月21日 21時09分28秒

いやあ、門外漢なのでサッパリですが、他ならぬS.U大人の御質問ですから、にわか検索でお答えしましょう。

まず、薬剤師の資格は「販売又は授与の目的での調剤」に関しては業務独占なので、漢方薬であっても、薬剤師資格は必須です。漢方薬の店員さんには、薬剤師国家資格者が必ず一人は必要なわけですね。他に「漢方薬・生薬認定薬剤師」制度というのもありますが、これは学会認定資格ですから、業務遂行にあたって法的に必須なわけではありません。

>ああいう固まりを素人が買って、徳川家康よろしく自宅で薬研でごりごりやるのは違法

薬剤師法は、販売・授与の目的以外の薬物の製造・輸入を禁止していません。漢方薬の店頭で買った単品や、自分で野山で採った薬草をゴリゴリやって、自分で服用する分には問題ありません。(それを他に譲渡したり、飲ませたりすれば、ただちに違法です。)

一応上のように理解しましたが、薬をめぐっては関連法規が多くて、いろいろ他にも規制の網がかかっているかもしれません。その辺は「門の内」にいる人にお聞きしたいところです。

ときに、私が日頃気になっている漢方の店はここです。
http://www.honsoukaku.co.jp/docs/index.html
店構えから、かなり気合が入っていて、薬種問屋はまだまだ健在のようですよ。

_ S.U ― 2015年05月22日 19時01分06秒

ご教示ありがとうございました。漢方薬と西洋医学の薬でモノの販売形態は違っても、法律の適用というところは同じなのですね。面白いです。
 でも、医者が出した薬でも、ネットで買った薬でも、野山で採集した薬でも、飲むか飲まないか、どれだけ飲むかは、結局は飲む人の意志にかかっていて、これは「究極の自己責任」と言えるかもしれません。
 いっぽう、封建時代には、ゴリゴリの好きな殿様が、家臣に無理強いして飲ませるという迷惑な話もあったかもしれませんね。

 立派な薬種問屋が今も大都市にはあるのですね。構えが大きくても、今は明るくてきれいですね。もっと暗いあやしげな感じなのが懐かしいですが、中国か台湾に行けば今でもあるでしょうか。

_ 玉青 ― 2015年05月22日 22時05分07秒

暗くてあやしげな店…何となく台湾あたりにはありそうですね。
おそらく、ネットで検索すればチョロっと顔を出すなんていう、甘っちょろいものではなしに、はなはだ入り組んだ街路の奥にひっそりとあって、観光客とは没交渉、もちろん一見さんお断りで、一部の豪家の使いの者が、時おり人目を忍んで通ってくる…そんなイメージがあります。

_ S.U ― 2015年05月23日 11時14分34秒

>台湾あたり
 うーん。そんな店に行ってみたいけど、かなり怖そうですね。当面は日本国内で探すことにします。

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