「星を売る店」の神戸(8)…星店へのナビゲーション(中編)2015年06月19日 07時04分49秒

奇術見物を終えた2人は、おもむろに歩き出します。

 もうその時、最後の危険術が終ったので、集っていた人人は散りかけていたから、私とNとの足も、又向くともなく本通へ出て、鉄道の踏切の方にさしかかっていた。

この「本通り」は普通に考えると元町通りでしょうが、そうすると後の記述と位置関係が整合しないので、ここは<細い路地に対しての本通り>、すなわち南京町のメインストリートだと考えます。

また、文中の「踏切」は、昔の三宮駅(現在の元町駅)西側にあったそれでしょう。
この付近の高架工事が行われたのは、昭和9年(1934)だそうで、小説の舞台である大正時代には、踏切を越えないと南北の行き来はできませんでした(ここまでが、昨日の<MAP2>と対応します)。

しかし、踏切まで行かないうちに、二人はNの父親が経営するホテルで一緒に食事をすることに話を決め、道を引き返します。

 そこで、二人は又元来た路の方へ踵を反した。先ほどの露路へ入って、煉瓦建の下まで来ると、もううす暗くなりかかったなかで、青い帽子の中国人が、忙しく布や太鼓や皿を、古ぼけたカバンのなかへ、取りかたづけていた。〔…〕
 漢字をならべた赤い紙が見える窓や、褐色の豚肉がさがっている店や、又、そこにともっている灯を映した水のたまった狭苦しい石甃〔いしだたみ〕の上を歩きながら、私は〔…〕

怪し気なムードの漂う、雑然とした一角ですが、これまたいかにも神戸らしい、非日常的な空間です。二人はさらに線路を越え、しばし北上を続けます。

(MAP 3:南京町から、中山手通りに出て、生田神社裏へ)

 その時、私たちはゴタゴタと曲りくねった狭い街区をぬけて、中山手の本通りに出た。うしろから自動車が一台そばをかすめて、ルビーのようなテールライトを、鳶色の夕やみのなかにうるませながら、向うの辻をまがって行った。
 〔…〕二人は、フランクリンがまがった辻を折れて、鬱蒼とした生田の森のうしろにあるBホテルの表門をくぐって、明々とかがやいた玄関の石段を上がった。

地図上、途中の経路はまったくの想像ですが、ともかくも二人は曲りくねりつつ、生田神社裏手のホテル(○印)にたどり着き、そこで夕食を共にします。

 Nに御馳走になった私は、七時頃葉巻をくわえて、そのホテルのつい近所に、最近、蓄音機の店を道楽に開こうとしているKのところに訪れた。

食事を終えた「私」は、ここでもう一人の友人を訪ねることにします。「ホテルのつい近所」とあるばかりで、その場所が今ひとつはっきりしませんが、この後に続く記述を考えて、上の地図の△マークの辺りに比定してみました。

(後編につづく。いよいよ「星店」へ)