「星を売る店」のドアを開ける(9)…星は口腹を満たす(後編)2015年07月02日 18時43分59秒

 さらにこのままフラスコの中に入れて、アルコオルランプか何かで温めながら、少しずつ蒸気をお吸いなされるなら、オピァムに似た陶酔をおぼえ、その夢心地というのがまことにさわやかで、中毒のうれいなどは絶対になく、非常にむつかしい哲学書の内容なんかも、立所に判るそうでございます。


Opium、阿片。
この店員の説明は、かなりアブナイ感じのするもので、「中毒のうれいなど絶対にない」と言われても、迂闊に手を出すことは憚られます。(仮に身体依存性はなくても、強固な精神依存性を生じかねません。この種の快はいったん味わうと、容易に離れがたいからです。)


この一文、「キラキラしたお星さま」は、決して愛らしい賞玩品なんぞではなく、一方には人間を手玉に取ったり、破滅させたりする剣呑な顔があるゾ…というほのめかしになっているのかもしれません。これは「一千一秒物語」以来、足穂が星に対して抱いているイメージでしょう。


しかし、それでも人は星に惹かれ、じっと見つめ、思わずポンと口に放り込む誘惑に駆られます。美しい対象は、得てしてそういものだと思います。

   ★

「それで―」と待ちかねて私は口を挟んだ。
「いったい何物なんです?」
「星でございます」
「星だって?」

さて、物語は、ここから遥かな異国における星捕りの話題に入って行きます。

(この項つづく)