京都博物行(8)…星のコイン2015年07月19日 06時51分25秒



ラガード研究所で見つけた半ペニー硬貨。
六芒星(ダビデの星)を鋳出して、しかも中央に穴が開いているという変り者。

周囲には、「British West Africa 1937」の文字が見えます。
British West Africa(イギリス領西アフリカ)というのは、イギリスがアフリカ西部に何か所か分散して持っていた植民地の総称。強引にアフリカ大陸を九州にたとえると(あまりピンと来ないたとえで恐縮ですが)、佐賀から熊本にかけて、有明海に沿った地域がそれにあたります。現在の国名でいうと、ガンビア、シエラレオネ、ガーナ、そして域内最大のナイジェリア。

この六芒星デザインのコインは、ナイジェリア独立前夜、ナイジェリアが自治権を獲得した時代まで用いられました(そちらは発行者が「British West Africa」から「Federation of Nigeria」に改鋳されています)。


裏側には英国国王にしてインド皇帝のジョージ6世(国王在位1936-1952)の名が見えます。すなわち今のエリザベス女王のお父さんです。

   ★

この硬貨、たいそう変ったデザインですが、コインマーケットでは割とありふれたものと聞きました(発行量が多いのでしょう)。それに表面も大層すすけており、コインコレクターは高評価を付けないと思います。

しかし、その向うに想像される歴史は、実に奥深いものがあります。
この80年間で世界の地図がどれほど書き換わり、どれほどの血が流されたか。
この煤こそが、歴史そのものでしょう。


そして何と言っても、このコインは、他の何処でもない、あのラガード研究所にあったのです。そして、あの仄暗い店舗の隅で、鈍い星の光を放っていたのです。そのことの意味は他の人には伝わりにくいかもしれませんが、私にとってはとても大きいのです。


星のコインは、淡嶋さんからいただいた、ラガード研究所特製の蠟引き小箱にぴたり収まりました。蓋をそっと開けて中を覗き込めば、これからいつでもあの空間を感じることができるでしょう。


さあ、皆さんもどうぞ「あの世界」へ―。


(『ガリバー旅行記』に登場する本家「ラガード」は、日本の東方に浮かぶバルニバービ島に築かれた都市。しかし空中都市ラピュータに圧伏され、苦戦中です。)