お伽の国の天文時計 ― 2015年09月27日 20時17分24秒
時刻と同時に、月の運行や、惑星の位置、星座の動きなどを表示する「天文時計」というのを、ヨーロッパの街角で折々見かけます(私の場合、写真やテレビで見るだけですが)。あれはいかにもお伽チックな、「欧羅巴」的な匂いのするものです。
中世の終わりからルネサンスにかけて、ああいうからくり仕掛けが各地で流行り出したのは、都市化によって人々の「時」や「暦」に対する観念が変りつつあったことの反映であり、同時に諸侯や自治都市が富と権力を誇示する意味合いもあったのでしょう。
それだけに、時として「恐れ入ったか!」とばかりに、見る人を威圧するようなデザインの天文時計も見受けられます。
そんな中、下の天文時計はわりと小造りの、いかにもお伽の国から飛び出したような愛らしさがあります。
ベルギー北部、リールの街に立つ、Zimmertoren(ツィマー塔)の絵葉書。
古めかしい絵葉書ですが、消印は1952年なので、そんなに古いものではありません。でも、古めかしく見えるのも道理で、この絵葉書は何と石版刷りです。戦後になってからも、石版がこんなところで使われていたと分かる、貴重な作例です。
キャプションが、オランダ語(上)とフランス語(下)の2本立てになっているのは、両国語を併用しているベルギーならではでしょう。
この塔の下に立って見上げると、たぶんこんな雰囲気。
肝心の文字盤はこんな感じです。てっぺんの球は月の満ち欠けを示すムーングローブ、一番下にあるのは地球儀で、その他10個の文字盤が、中心の大時計を取り巻いています。
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驚くべきことは、このいかにもメルヘンチックな時計が、中世・ルネサンスなんぞでなく、20世紀に入ってから作られたものであることです。
たしかに、時計を取り付けた塔そのものは、14世紀にさかのぼる歴史的建造物(古い城砦の一部)に違いないのですが、そこに天文時計を取り付けることを提案し、それを寄贈したのは、時計メーカーにして、自ら天文家であった Louis Zimmer(1888-1970)で、時計の据え付けが終ったのは、実に1930年のことでした。
ツィマーはさらに1960年には、この塔の隣に「驚異の時計(The Wonder-Clock, 蘭:Wonderklok)」というのを据付け、その何が驚異かといえば、その針の回転は世界で最も遅く、一周するのに2万5800年もかかるという代物だそうです。(2万5800年というのは、地球の歳差運動、すなわち地球の自転軸の向きがゆっくり回転している現象に対応するものです。)
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…というようなことを、今回 Wikipedia(https://en.wikipedia.org/wiki/Zimmer_tower)を読んで知り、世の中聞いてみないと分からないことが多いなあと感じました。
上のリンク先には、文字盤の詳細の説明も載っているので、とりあえず画像だけ貼っておきます。
コメント
_ S.U ― 2015年09月27日 22時10分38秒
_ 玉青 ― 2015年09月28日 20時34分24秒
画像のご紹介、ありがとうございます。
「2万5800年」にかける執念が伝わってくるような、鬼気迫る文字盤群ですねえ。
運針の方は、ギア比の取り方でどんどん回転を遅くできるのかもしれませんが、ひょっとしてひょっとして、この驚異の時計、2万5800年間ずっと(人が手を触れずに)動力が供給されるように設計されているんでしょうか?とすれば、その駆動部こそ驚異ですね。
「2万5800年」にかける執念が伝わってくるような、鬼気迫る文字盤群ですねえ。
運針の方は、ギア比の取り方でどんどん回転を遅くできるのかもしれませんが、ひょっとしてひょっとして、この驚異の時計、2万5800年間ずっと(人が手を触れずに)動力が供給されるように設計されているんでしょうか?とすれば、その駆動部こそ驚異ですね。
コメントをどうぞ
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特に、この世界一遅いという「驚異の時計」が気になりました。写真を捜してみたのですが、この Lier, Zimmerの写真集約のページで、
http://flickrhivemind.net/Tags/lier,zimmer/Interesting
中ほどに出てくる文字盤に 25.800 Ans とあるやつですね。
思い切り遅い時計を機械で作るのはそうとう面倒なんでしょうねぇ。