島津、理科の王国(3)2015年10月31日 08時32分34秒

さあ、いよいよ明治の理科模型が生み出される現場を見学します。

(この写真は以前も載せましたが、より鮮明な写真がアルバムに収録されていたので、もう一度貼っておきます)

大小さまざまな人体模型が、室内ににょきにょき立っています。
ここは「模型工場成型部」で、次の彩色部に引き継ぐ前の作業工程です。

これが演出でなく実景だとすると、人体模型の製作は各工程を分業化せず、一人が一体の模型を最後まで仕上げていたのでしょう。右端の女性は、どうやら眼球模型専業のようです。

各自お尻の下に座布団を重ね、これなら椅子とテーブルで作業をした方がはかどりそうな気もしますが、明治の人はどっかと坐った方が気合が入ったのかもしれません。

具体的な作業内容は、この写真だけだと判然としませんが、ここに並ぶのは全て紙塑製模型ですから、紙粘土を型で粗成型した後(後方に見える黒い人体模型は、その木型の1つかもしれません)、手で細部の形を仕上げ、下地の胡粉塗りをしてから彩色部に引き継いだのでしょう。


こちらが「彩色部」の様子です。
頭上には半製品が干されていて、かなり奇怪な光景ですが、職人さんにとってはこれが日常なので、当然のことながらまったく気にする様子はありません。それよりも、エアブラシなんてない頃ですから、すべて筆一本の勝負で、左手前の人の表情など、真剣そのものです。

左赤身、右赤身、総赤身、半骨格、大きいの、小さいの…
こうして見ると、本当に人体模型もさまざまですね。
島津ではそれらを同時並行で製作しており、典型的な多品種少量生産の世界です。


さて、いったん模型工場を出て、隣の建物に入ると、そこは「剥製工場」です。
哺乳類の剥製も見えますが、やはり数が多いのは鳥類で、特にキジの仲間は見栄えがして人気があったせいか、いくつも並んでいます。

写真は出来上がった剥製を台座に取り付ける最終工程で、本当は別室でもっと生々しい作業が行われていたはずですが、さすがにそれはアルバムには載せ難かったのでしょう。


こちらは「顕微鏡室」。
詳しい説明がありませんが、おそらくプレパラート標本や、顕微鏡関連の視覚教材を作った部屋でしょう。背後の棚には、標本の固定や染色に使うらしい薬品類が並び、手前の卓上には完成したプレパラートが置かれています。

   ★

ここで組織的なことを補足しておくと、島津の場合、生物系の商品は、他の理化学機器とは別に「標本部」が所掌しており、標本部主任の下、製造から営業販売まで独立した体制をとっていました。

標本部の中には、上記の模型工場、剥製工場、顕微鏡室から成る「作業部」があり、また鉱物係、植物係、動物係、地歴係から成る「商品部」がありました。そして、これに事務部、販売部を加えた4部から標本部は構成されており、まさに「社内社」ともいうべき存在でした。


このすごい部屋が何だかお分かりですか?
標本陳列室…ではなくて、これが標本部の応接室なのです。
ぜひ、こんな部屋で応接されたいですね。

(おまけ。標本部事務室

もうこの辺でお腹いっぱいかもしれませんが、まあせっかく来たのですから、完成した標本の倉庫・陳列室も見に行きましょう。

(この項つづく)