島津、理科の王国(4)2015年11月01日 12時04分45秒

あっという間に11月。今年も残りふた月を切りました。
まことに呆然としますが、これは年中行事で、大体毎年この時期は呆然とするのが常です。

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島津標本部の見学を続けましょう。まずは倉庫の方へ。


ここは石の保管庫です。あちこちの産地から、箱単位で納入されたものでしょう。
大小さまざまな箱が見えますが、当然一つの箱に入っているのは、同じ種類の岩石のはずです(手前の箱には「磁鉄(鉱?)」とチョークで書かれています)。
右側の大箱には、大きな石が山盛り。販売にあたっては、これをさらに適当な大きさに整形(トリミング)して用いたのでしょう。


こちらは液浸標本の倉庫。まことに壮観といえば壮観。
でも、やっぱり生理的にどうも…という方も多いでしょう。
辛うじて「学問・教育のため」という大義名分があるので、何とか認容されているものの、生あるものを殺し、切り刻み、眺める…なんていうのは、やっぱり悪趣味だし、罪作りな行為だと感じます。

「いったい生命の尊厳を何だと思っているのです。」
「いや、これこそが生命の尊厳を何よりも雄弁に物語る証拠なのです。」
「この死体の山がですか?」
「あなたは誤解されています。死体とは腐朽への道程にある肉塊の謂いです。しかし彼らは違う。彼らはすべて生きていたときのままの姿を、永遠に保ちうるのです。もしお望みなら、あなただって…」

―というような会話を、小川洋子さんなら作中人物に語らせるかもしれません。
まあ、いろんなことを考えさせられる光景であることは確かです。
製作者の意図がどうであれ、昔の子どもたちも、こうした標本から神経系の構造や比較解剖学なんかを学ぶより、哲学的・文学的な何かを一層感じ取っていたんじゃないでしょうか。

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倉庫を出て別室に入ると、そこは「陳列室」、すなわち商品展示場です。
倉庫よりは明るく、整然とした雰囲気があります。




上は鳥類と哺乳類の剥製が並ぶ一角。
哺乳類の棚には、ワラビーやチンパンジーと並んで最上段には双頭の牛が置かれ、元祖ヴンダーカンマー的な空気が濃厚に漂っています。



上は骨格標本、下は「魚類剥製と植物生理器械」のコーナーです。
魚類剥製は、剥製として決してマイナーな存在ではありませんが、理科室では見た記憶がありません。なぜか?というのは興味深い点ですが、答は分かりません。



こちらには標本ではなくて、動・植物の模型が並んでいます。
人体模型同様、素材は主に紙塑ですが、一部は石膏や蝋(ワックス)によるものもあったと思います。

ひときわ目立つカタツムリの解剖模型は、2013年にインターメディアテクで開催された「驚異の部屋―京都大学ヴァージョン」展でも、類似の品が出品されていました。その折の説明によれば全長は62cmと、かなり大きなものです。

(「驚異の部屋―京都大学ヴァージョン」展図録より)

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当時の理科標本・理科模型のあらましが分かったところで、骸骨と人体模型に見送られながら、そろそろ標本部を離れることにしましょう。
次は島津の中核ともいえる、物理・化学系の機器類を見に行きます。


(この項さらにつづく)