出でよ渾天儀(2)2015年12月19日 12時37分17秒



全体のデザインからすると、南京の紫金山天文台に置かれている渾天儀のミニチュアのようです。素材はおそらくブロンズ(青銅)でしょう。


こちらが、南京にある本家本元のオリジナル。
これは、現存する中国最古の渾天儀であると同時に、なかなかドラマチックな過去を持っています。末尾の参考ページ 1)~3)の情報を総合すると、大略以下の如し。

この渾天儀が製作されたのは、明の正統年間(1436-1449)といいますから、約600年前のことです。

その後、王朝が清に替わった後も、長いこと北京の観象台に置かれていましたが、清朝末期になって、武装結社・義和団が蜂起した際(義和団事件、1900年)、乱を鎮定するという名目で、列強の8か国連合軍が北京に入城し、このときドイツ軍が、火事場ドロボウ的にこれをベルリンに持ち去ってしまいます。

ドイツが返還に応じたのは、ようやく1920年のことで、時すでに清も滅び、中華民国の時代です。そして1933年、中華民国の首都・南京の紫金山天文台に移設され、新中国成立後もそこにある…というわけです(北京の観象台に現在置かれているのはレプリカです)。


ミニチュアの方は、木製の台座が23cm四方、本体(球体部分)の直径が約12cmのかわいいサイズですが、こうして陰影を濃くすると、その存在感はなかなかのものです。
それに、あんまり大きな渾天儀が部屋にドーンとあると、迫力がありすぎて困るので、これはこれで良いのです。

   ★


こうして見ると目がチカチカして、何が何やらわけが分かりませんが、この渾天儀は、ざっと重の構造になっています(詳細は、参考ページ4)を参照)。


最外層は3個のリングから成る球殻です。

四方から竜が支える「地平環」(地平線を表わします)、それと直交して南北を貫く「天経環」(子午線に相当します)、さらに天の赤道にそって東西を貫く「天緯環」がそれです。これらは全て台座に固定されており、不動です。


その内側にあるのは、4個のリングから成る球殻です。

まず「赤道環」(上記の天緯管と平行して存在します)、それに斜交する「黄道環」、さらに赤道環に直交する2個の環の計4つです。(後2者の正式名称は不明ですが、黄道と赤道の交点、すなわち春分・秋分の2点を通る環を「分点環」、それと90度ずれて夏至・冬至の2点を通る環を「至点環」と、ここでは仮称します。)

【2015.12.26付記】

コメント欄でのご教示により、仮称「分点環」「至点環」は、「二分環」「二至環」がより適当と思いますので、そのように修正します。
なお、追加記事(http://mononoke.asablo.jp/blog/2015/12/26/)」もご参照ください。

これら4個のリングから成る球殻は、第1の球殻内部にあって、天の南北軸を中心に、くるくる回転します。(なお、ここにさらに白道環を加えた渾天儀もあるようですが、ここでは省略されています)。


さらにその内側には、3つの要素から成る一種の「円盤」が存在し、第2の球殻内部で、これも天の南北軸を中心に回転します。

円盤の円周部に当るのが、天の赤道と直交する「黒双環」(赤経線に相当します)、そして天の南北両極を結び、円盤の回転軸に相当する「直距」、さらに直距と中心を同じくし、黒双環に沿って自由に回転する「玉衡」です。

最後の「玉衡」は、このミニチュアでは1本の棒ですが、実物は中空の筒で、これで星を覗き見るようになっています。中国の渾天儀は、単なるデモンストレーション用ではなく、実用的な観測機器であり、目視観測のための玉衡と、その位置を読み取るための複数の座標環から出来ていた…というのが、その基本的な姿です。


このミニチュア、可動部はオリジナルとまったく同様の動きをしますし、環の目盛りも律儀に刻んであるので、単なる土産物にしては、なかなか精巧な作のように見受けられます。


そして実に竜々(たつたつ)しい。
この竜々しさのせいか、この品に入札した人は私以外にいませんでしたが、個人的には、今年最大の収穫と評価しています。

まあ、これが部屋の風趣に調和するかは一寸微妙ですが、そもそもこれが調和する部屋ってどんな部屋なのか、あまり想像がつきません。


<参考ページ>
1)天漢日乗

コメント

_ S.U ― 2015年12月19日 17時34分31秒

え゛ー、これが、え゛ー、え゛ー、え゛ー (←騒々しい)。出物があったのですか。え゛-。よくぞ憶えていて下さいました。確かに岩を通すものですね・・・

 23cmといっても球形の物はけっこう大きく見えるものですよね。それにこの竜。けっこうお高いのでしょうね・・・

 私はこれだけのものを購入する度量はありませんが(ほしいですけど)、もし、中国か台湾に旅行をしてお土産品で持ち帰れる程度のものが見つかれば購入したいと思います。

 それよりか、この本物で、いちど星を観測してみたいですね。

_ 玉青 ― 2015年12月20日 08時52分28秒

いやあ、世間広しと言えど、これを羨ましがっていただけるのはS.Uさんぐらいで、いくぶん自慢のしがいがないのが寂しくもありますが(笑)、それでも見つかって本当に嬉しかったです。
お値段の方も、競り合いがなかったおかげで、懐にこの上なく優しかったんですよ。
まずはめでたしめでたし。(^J^)

_ Ha ― 2015年12月25日 23時03分56秒

いやあ、世の中には凄いものがあるんですね。
アストロラーベとかは海外の広告でちょくちょく見かけますが、中国の渾天儀の精巧なミニチュアがあるとは驚きました。
私も、ものすごく羨ましいです。。。
どこかに売ってないかなぁ…。

仮称「分点環」「至点環」ですが、香港科学館の冊子によると、中文では「二至圏」「二分圏」と呼んでいるようです。(以下、ご参考までに)
http://www.geocities.jp/prograph_sx/kontengi/shikinzan.html
それに習えば「二至環」「二分環」となりそうな気もしますが、実際のところはどうだったんでしょうね。

_ 玉青 ― 2015年12月26日 08時47分25秒

いやあ、Haさんにもそう仰っていただき、これで自慢のしがいが一挙に2倍になりました。(笑)

改めまして、今回も的確な情報をありがとうございました。
それにしても、彼の地の資料まで遺漏なくお持ちとは、本当に驚きです。
ひょっとしてご迷惑かとは思いつつ、驚きついでに新たに記事を一本書かせていただきました。おかげでこの渾天儀を見る目がいっそう深まり、なおさら有難いものに思えてきました。

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