足穂氏、微苦笑す ― 2015年12月20日 08時45分18秒
老いの繰り言はまだ続きます。
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(海の幸にめぐまれた明石を象徴する商店街、「魚の棚」。2015年)
私は4年前の夏に、神戸の西の町・明石を初めて訪問しました。
作家・稲垣足穂は、神戸の学校(関西学院)を卒業し、その後も神戸を舞台にした作品を多く書いていますが、彼は明石の両親宅から神戸まで通っていたので、そのホームタウンはあくまでも明石です。
このとき明石を訪ねたのは、彼の足跡をたどるためでした。
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今回、神戸を訪ねたついでに、私は4年前から心にかかっていたことを実行するため、明石を再訪しました。それが何かは、以下の記事に書かれています。
かいつまんで言うと、明石には、かつて少年時代の足穂が憧れの目を向けたハイカラな西洋雑貨店があり、驚くべきことに、そこは今も営業を続けているのです。
私は冥界の足穂に手向けるため、何かそこでモノを買わないといけないような気が、ずっとしていました。
私は冥界の足穂に手向けるため、何かそこでモノを買わないといけないような気が、ずっとしていました。
今回、そこで目にしたのが、この土星のカフリンクス。
英国生まれのピューター製で、深みのある青のベルベットに、銀色の土星が鎮座している様は、いかにも足穂好みだと思えました。
英国生まれのピューター製で、深みのある青のベルベットに、銀色の土星が鎮座している様は、いかにも足穂好みだと思えました。
糊のきいた真っ白な袖口に、鈍い銀の土星が顔をのぞかせているなんて、ちょっと素敵ではありませんか。
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…というのは、つまらない「嘘」です。
このカフスは、全然別のところで買いました。
このカフスは、全然別のところで買いました。
かつてのハイカラ雑貨店も、今では地方の商店街に立つ小体(こてい)な洋品店以上のものではなく、そして地方の商店街は、現在おおむね苦境に立たされているのです。
宇宙的郷愁を感じさせる品を求めて、勢い込んで店に飛び込んだ私が、背中を丸めて店から出てきたとき、手にしていたのは、エコノミーで実用的な小銭入れでした。
まあ、「悄然」というほどでもないですが、なかなか現実と脳内イメージは一致しがたいものだ…と、いくぶん塩辛い気持ちになったのは確かです。(はたから見たら、きっと落語の「酢豆腐」に出てくる若旦那みたいな、滑稽な姿に見えたことでしょう。)
コメント
_ S.U ― 2015年12月20日 16時46分16秒
_ 玉青 ― 2015年12月21日 06時43分18秒
やや、それでしたらネクタイにすればよかった(笑)
いずれにしても、足穂氏の微苦笑を誘えたのであれば、明石まで足を延ばした甲斐があります。少なくとも、これだって六文銭を入れる用ぐらい足せますから、足穂氏にとって多少お役に立つかもしれません。
いずれにしても、足穂氏の微苦笑を誘えたのであれば、明石まで足を延ばした甲斐があります。少なくとも、これだって六文銭を入れる用ぐらい足せますから、足穂氏にとって多少お役に立つかもしれません。
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でも、この小銭入れもシンプルですが、なかなかいいようですよ。
足穂は、「酢豆腐」の若旦那のような、ちょっととぼけた人を高く評価していましたね。彼の父上も母上も少し常識からずれていて、足穂は彼らをけなしながらも敬愛していました。
そういえば、『弥勒』に、佐藤春夫に手紙を出したら、その返信に小説のネタとして「自分の好きなものを探して世界じゅうを歩き、そうして結局倫敦でネクタイを一本買って帰ってくる男の話」とあって、足穂はそれで春夫に弟子入りしたとあります。小銭入れ一つ、ちょうどいいんじゃないでしょうか。