最高の思い出、最低の記憶2015年12月21日 06時22分55秒

年末ということで、普段手の届かないところを掃除していると、昔買った物があちこちから顔を出します。以前は、我ながら無分別な買い物が多く(←思慮分別も、対象をセレクトする意識も、共に希薄でした)、今となっては何故買ったのかよく分からない物も多いです。


この「最高最低温度計」も、そんな雑然とした物の一つですが、試みに写真に撮ってみたら、存外美しいものだと、今さらながら思いました(写真が下駄をはかせている部分もあるでしょう)。




形状、ガラスの透明感、刻字の陰影、そして古びた金属の質感。
「シャビー」という表現は、ひところ多用されすぎたきらいがありますが、やっぱりこういうのは「シャビー」という他なさそうです。


温度目盛りは、摂氏(C)と華氏(F)が併記されています。

この温度計は、かつて中部地方のさる測候所で実際に使われたものと聞きました。
およそ半世紀前、あるいはもっと昔、きっとこの温度計の示度が、天気予報の基礎データとなったこともあるでしょう。


細管の中を行き来する、青ガラスの温度指示子(左)。伝統的に「虫」と呼ばれます。
水銀柱に押された青ガラスは、水銀柱が引っ込んだ後もその場にとどまり、その日の最高・最低気温を教えてくれます。

   ★

U字管式の最高最低温度計は、今も立派な現役で、素材こそ違いますが、ほとんど同じ姿をした商品がたくさん売られています(園芸とか食品製造とか、これを必要とする場は多いようです)。

「何でもデジタル」の世の中で、このアナログ感は捨てがたい。
やはりシンプルなものは強いですね。

コメント

_ S.U ― 2015年12月21日 21時32分01秒

これは年代物ですね。特に、横向きに掛けるデザインがプロ仕様のようで魅力的です。

 こちらも老いの繰り言になりますが、私は小学校中学年の頃、気象観測が趣味でした。その器具のなかでもっとも好きだった物の一つが最高温度計、最低温度計でした。横向きに掛けるのがカッコいいと思いました。それから、この「虫」(という呼び方は今日初めて知りました)を磁石で動かすのがまたいいですよね。普通は磁石が付属していて温度計の金属部分にはり付けてあったと思います。もっとも温度計を傾ければ動いたと思うので、必ずしも必要なかったかもしれません。

 でも、私がいちばん好きだったのは、最高温度計と最低温度計が別々になっているタイプです。最高温度計には、「虫」の無いタイプがあって、水銀体温計のように水銀柱が上がるが下がらないようになっていました。見た後はたぶん振って元に戻したのだと思います。最低温度計のほうは、液体(アルコール?)の中に虫の入ったタイプしかなかったと思います。

 本当に懐かしいです。記憶のほうはちっともシャビーにならずに、百葉箱のそばで触っていた温度計がつやつやの天然色で昨日のことのように思い出されます。

_ 玉青 ― 2015年12月22日 20時11分01秒

みずみずしい思い出をありがとうございます。
決して古びない記憶というのは確かにありますね。

ビクトリア時代の英国紳士も、自宅に機器をそろえて盛んに気象観測をしていたそうですが、「気象観測趣味」というのは、至極上品な雅味を感じます。

そして気象観測趣味は、「観天望気」の語そのままに、この世界に満ち満ちた「気」の動きを感得せんとする、非常に壮大な心を育む契機となったかもしれず、少年時代にそういう経験をされたことは、S.Uさんにとって、とても深い意味があったのではないかと想像します。

_ S.U ― 2015年12月23日 05時55分37秒

>上品な雅味
ほう、そうだったんですか。
 当時の田舎のハナタレ小僧にそんな雅趣があったはずもありませんが、思い出の脚色にお金はかかりませんので、ここは有り難くそうだったことにさせていただきます(笑)。

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