天と地と2016年01月22日 22時33分36秒

これも連想尻取りめきますが、天球と地球を直接対応させる…という発想が生んだものとして、こんな品があります。

(カードの裏面は無地)

星座絵と世界のあちこちの地図が印刷された「トランプ」。
トランプといっても、ハートやスペードのマークはありません。
ルールは不明ですが、何らかのカードゲームに用いたらしい、60枚のカードセットです。


箱の中に入っていた説明書には、以下のように書かれています。

「この2004年に印刷されたトランプセットは、スペインのヴィトリア・ガステイス(Vitoria-Gasteiz)に立地し、アラバ地方名誉評議会(Excma. Diputación Foral de Álava)が所有している、「アラバ県『フォルニエ』トランプ博物館」(”Fournier” CARDS MUSEUM IN ALAVA)のコレクションから見出されたオリジナルを復刻したものです。」

固有名詞が多くて分かりにくいですが、アラバはフランスとの国境に近い、スペイン・バスク地方の県で、ヴィトリア・ガステイスはその県庁所在地。そして「フォルニエ」というのは、同地で19世紀から続くトランプの老舗メーカーで、同社のトランプ・コレクションは世界でも有数のものだそうです。


今回登場の復刻品も、そのコレクションの一部で、オリジナルは1828年にイギリスで出たもの…と箱には書かれています。

   ★


各カードには、星座絵や地図の他、左肩のところに「S26°」とか「N46°」といった数字が印刷されています。大方想像がつくように、これは「南緯26度」、「北緯46度」の意味です(注)。


で、たとえば南緯13度のカード。
星図の方は「やぎ座」で、地図のほうはブラジルです。
両方の緯度が同じということは、ブラジルに行けば、南中時には「やぎ座」が頭の真上に見えるということです。


同じように、フランスに行けばペルセウス座が、


アフリカのギニアに行けばオリオン座が、頭上高く輝くというのですが、これらの国々で該当の星座が格別重視されている風でもありませんし、「だからどうした?」という思いが、チラッと頭をかすめます。そもそも、人間は頭上のことは、かえって意識に上りにくいものです。


改めて数えて見ると、
  南の星座は10枚 (1,6,10,13,15,16,26,29,52,60)、
  南の地図は6枚 (1,5,12,13,34,35)
あります(カッコ内の数字は緯度)。

北の方も、いちいち緯度は挙げませんが、星図が20枚に対し地図が24枚で、星図と地図で対が取れているわけでもないし、南と北で対が取れているわけでもありません。緯度の間隔もバラバラです。これで一体どんなゲームをしたのか?

パッと見の印象としては、「面白くてためになる」当時の家庭教育用の品だと思うのですが、いささか企画倒れの感がなきにしもあらず。

   ★

ただ、優美なことは確かです。
天上の星も、遥かな国々も、同じような神秘の香りに満ちていた時代ですから、雄弁なお父さんがいる家庭では、このトランプを手にしながら、話に花が咲いたであろうことは想像に難くありません。

ヴィクトリア時代がまだ幕を開ける前、イギリスに真の田園生活があったとされるジョージ王朝時代の余香が、画面に漂っている気がします。
これは、その優美さを愛でる品なのでしょう。


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(注) 空の星たちも、地球上の「北緯・南緯」や「東経・西経」と似た方式を使って位置を表わし、南北方向は天の赤道を基準に「赤緯」で、東西方向は春分点(昨日登場した「黄道」と天の赤道の交点です)を基準に「赤経」で表示します。

赤緯に関しては、「北緯~」に代えて「プラス何度」、「南緯~」に代えて「マイナス何度」という呼び方をするのが普通ですが、このトランプでは天地いずれも「北緯・南緯」と呼んでいます。