見えない光2016年01月12日 22時52分09秒

怪光線といえば、紫外線も目には見えない怪光線。
その波長はというと、X線が1ピコメートル~10ナノメートルであるのに対し、紫外線のほうは10~400 ナノメートルと、その短波長側はX線と境を接しています(長波長側は、当然、紫の可視光線と接しています)。

X線も紫外線も、直接目では見えませんが(直接見ると目に毒です)、ひとたび部屋の中をブラックライトで照らせば…


…と、気を惹いたわりに、それほど大したことないですね。
もうちょっと不思議な光景を期待したのですが、わりと地味な光景でした。

考えてみれば、それも当然です。
我々が知覚できるのは、紫外線照射に対して、可視光で反応を返すものだけですから、そんな変わり者が、自然界にそう沢山あるはずがありません。この写真で光っているのも、だいたいが人工的に作られた白い紙です。おそらく紙を漂泊する過程で、蛍光剤を使用しているのでしょう。


額の絵も、周囲の白いマットだけが鮮やかに光って、この時ばかりはいつもの脇役が、主役のような顔をしています。


それでも、よく見れば緑の蛍石が、不思議な青い光をボーっと放っていますし、


紫の蛍石は、いっそうあざやかな青い輝きを見せてくれます。

   ★

ただ、紫外線も良し悪しで、上の紫の蛍石は、いつも表に出しているせいか、ここ数年ですっかり褪色・白化してしまいました。かつての鮮やかな色彩や透明感は、今や私の記憶の中に残るのみです。

形あるものは、石にしても老いは免れがたいようです。

静かに涼しく燃える炎2016年01月13日 22時13分47秒

今日の月齢は3.1。
仕事帰り、爪切りでパチンと切ったような月が西の空にかかっていました。

   ★

さて、連想しりとりで話題を続けます。


写っているのは、コルク栓のはまったガラス瓶。
全体の高さは11.5cmですから、そう大きな瓶ではありません。
これが何かは、背面のラベルに記されています。


原子核の周りを回る電子の軌道変更と、それに伴う光の放出を描いたイラスト。
そして上部には、「FLAME REACTION (炎色反応)」の文字。

熱エネルギーで励起した電子が基底状態に戻る時、各元素に固有の光を放つ…
と聞いて、パッと理解できる人は少ないでしょう。もちろん私にも分かりません。(そもそも、こういう端折った説明は、たいてい正確さを犠牲にしているので、聞いているときは何となく分かった気になっても、後から考えるとよく分からないことが多いものです。)

ともあれ、そのメカニズムが分かるよりもずっと早くから(遅くとも18世紀の終わりには)炎色反応は化学者に知られており、新元素発見の手がかりともなったのでした。

   ★


この小瓶は、Snかすてらさん―Snは錫(すず)の原子記号で、「すずかすてら」さんとお読みします―が、「アルケミノート」のブランド名で発表されている作品の1つで、商品名は「Flame Reactor

中のレジン製キューブには、それぞれ原子記号が書かれており、暗闇でブラックライトを当てると、各元素の炎色反応に対応した蛍光を発するよう仕組まれています。


その理科趣味に富んだ機知といい、美しい表情といい、見るなり思わず膝を打ちました。


夜空を彩る花火も、炎色反応の美しい応用です。
この小瓶は、さながら机上で愉しむ涼しい花火であり、小さなケミストの不思議なラボラトリーといったところです。

アルケミノート: http://alchemynote50.blog.fc2.com/
■「Flame Reactor」商品ページ: https://suzu.booth.pm/items/63977


初かぜ2016年01月14日 20時36分43秒

仕事帰りに見上げる、いつもの西の空。
今日の月は、無精して伸びすぎた爪ぐらいの太さになっていました。

   ★

…と言っている間に、ちょっと風邪をひきました。
鼻水が止まらないので、今日は早く寝ます。

でも、せっかくなので、三日月にちなむ品を見つけて注文しました。
それが届くころには、私の鼻水も止まり、月も円満な顔になっているでしょう。

プラネタリウム自慢2016年01月17日 11時43分55秒

ごそごそと布団の中から這い出し、新聞を手に取ったら、プラネタリウムの記事が載っていました。東海地方のローカル面に載ったものなので、よその土地の人の眼に触れることは少ないでしょうし、何せ病み上がりでもあるし…と言い訳して、ペタッとここにスクラップしておきます。

(ちょっとシワシワですが…。朝日新聞 2016年1月17日、「Asahi+C Extra」面より)

記事は2011年にリニューアルした、名古屋市科学館のプラネタリウムを紹介しています。

   ★

名古屋の人が好んで使うフレーズの一つに、「日本最大級」というのがあります。
地元の施設を紹介するとき、よく聞かれるのですが、「日本最大」と言い切らず、「最大」と言うところがミソ。「日本最大とは言わんけど、日本最大級と言っとけば、まあ嘘でもないし…」という、自慢しつつ卑下するような、卑下しつつ自慢するような、妙に屈折した表現です。

しかし、名古屋市科学館のプラネタリウムは、その大きさにおいて文字通り日本最大です。いや、それどころかギネス認定も受けた、世界最大のドーム径を誇ります。
朝日の記事が真っ先に取り上げているのも、この点です。

(ドームの大きさ較べ。記事によれば国内ではこんな順番だそうです。)

   ★

ここでネットに当ってみたら(“the biggest planetarium in the world”で検索)、トップに表示されたのが以下の記事。


■10 Best Planetariums In The World
 http://10mosttoday.com/10-best-planetariums-in-the-world/

そのランキングは、

第1位 ヘイデン・プラネタリウム (米、ニューヨーク)

1935年オープンの由緒あるプラネタリウムです。2000年にリニューアルし、組織的にはアメリカ自然史博物館の一部門です。リニューアル後は、球状ドームの上半分が「スターシアター」、下半分が「ビッグバンシアター」になり、それぞれが現在の宇宙のドラマと、宇宙創成のドラマを見せてくれている由。

第2位 サミュエル・オースチン・プラネタリウム (米、ロサンゼルス)

こちらも1935年にオープンした、西海岸最古のプラネタリウム。ハリウッド観光の名所であるグリフィス天文台に併設されています。

そして―

第3位 名古屋市科学館 (日本、名古屋市)

おお、来ました。世界中に無数にあるプラネタリムの中で、堂々の第3位です。
リンク先では、こんな風に解説されています。
 「名古屋市科学館は、直径35メートル(115フィート)のドームと350席を備えた、世界最大のプラネタリウムの所在地である。しかもこのプラネタリウムは、単に最も大きいばかりでなく、これまでに建てられたプラネタリウムの中で、最も洗練され、かつ最も高い品質を誇るものの一つである。」
もう、ここまで書いてもらえば十分でしょう。文句なしに立派なものです。

4位以下のランキングは次の通り。

4位 芸術と科学の都レミスフェリック (スペイン、ヴァレンチア)
5位 アドラー・プラネタリウム (米、シカゴ)
6位 H.R.マクミラン宇宙センター (カナダ、バンクーバー)
7位 モリソン・プラネタリウム (米、サンフランシスコ)
8位 アルバート・アインシュタイン・プラネタリウム (米、ワシントンD.C)
9位 ガリレオ・ガリレイ・プラネタリウム (アルゼンチン、ブエノスアイレス)
10位 ピーター・ハリソン・プラネタリウム (英、ロンドン)

文化施設として、世界のベスト3に入るものが、日本に果たしていくつあるか?
こうなると、名古屋人は屈折した思いをサラリと捨てて、堂々と胸を張っていいし、いっそ日本中の人が、わが事としてお国自慢してもいいぐらいです。

   ★

朝日の記事の方は、その「大きさ」以外に、「生解説」にも注目しています。
(以下、記事を引用)

 日本一、世界一に躍り出た名古屋市科学館のプラネタリウム。だが、本当の売りは他にもある。「生解説」だ。
 日本は世界有数のプラネタリウム大国。大小約350館は米国に次ぐ数だ。ただ、その中で生で解説するのは数えるほどしかない。バブル期に自治体が競って建てたこともあり、職員の数が不足。事前につくった番組を流す形式が増え、長期間にわたって知識を蓄える解説者の不足に拍車をかけている面もあるようだ。
 名古屋市科学館にいる解説者は25~60歳の男女7人で、全員が学芸員の資格を持つ。1枠50分、録音に頼らずしゃべりっぱなし。天文主幹で自身も解説者の野田学さん(53)は「時間いっぱいの生解説はやめません」と強調する。客層に合わせた話しぶり、アドリブも交えたトーク、そして、観客が星空を体感するしばしの沈黙……ベテラン職員でも毎回緊張するライブだ。
 日本プラネタリウム協議会の糸賀富美男さんは市科学館をこう評価する。「ハードだけでなく、ソフト面でも日本のプラネタリウムを引っ張ってくれている存在だ」

ハードもソフトも十分に手を掛けているのは貴重です。特に後者の点は、その地道な努力に心底頭が下がります。

   ★

ところで、現在、名古屋グランパスの新スタジアムの候補地に、科学館のある白川公園の名が挙がっているそうです。交通アクセスの良さが最大のアピールポイントで、スポンサーであるトヨタの意向を受け、河村市長も大乗り気だと仄聞します。

そうなると、今ある科学館や美術館は立ち退きということになるのですが、科学館や美術館へのアクセスの良さが失われることは、あまり関係者の念頭にはないようで、世界第3位のプラネタリウムも、いささか旗色が悪いです。

アストロラーベ風の何か2016年01月19日 20時04分53秒

全国で暴風雪の予報。
ストレートに雪の話題をとも思いましたが、寒夜の無聊を慰めるために、こんな品はどうでしょうか。


上は最近見つけた謎めいた道具。


北極を中心とする世界地図の上に、円環状の目盛りと、細長い指針状の目盛りが付いています。2つの目盛りは、いずれも北極を中心に地図上をグルグル回るようにできています。


全体の直径は約9cm、盤の厚みは1.5cmほどで、側面には革が貼られています。
いかにも時代がかった風情ですが、もちろん大航海時代のもの…というわけではありません。


ここまで拡大すると分かりますが、地図はオフセット印刷で、要はよくある「アンティーク風」のペーパーウェイト兼オブジェです。


裏面を見ると、「MADE IN ITALY」のシールが貼られており、全体の感じとしては、1960~70年代にイタリアで量産された土産物のようです(アンティーク風の地球儀や天球儀を、イタリアでは輸出用によく作っていました)。

土産物のわりに、モノの説明がきちんと書かれているのは比較的良心的で、文字に目をこらすと「アストロラーベは、当時(1520年)知られていた全ての土地を記載した北半球の地図上に応用された。それは1年のうちの様々な月における、地球の太陽に対する傾きを示すために使われた。」と読めます。

1520年と、ピンポイントで年代を指定しているところを見ると、これはどこかにオリジナルの品があって、そのレプリカなのかもしれません。ただ、上の文章は英語も少し変だし、意味が取りにくいです。

果たしてこの盤はどんな機能をはたすのか?
既にお分かりの方も多いでしょうが、冬の夜長に一寸のんびり考えてみます。

(この項つづく)

陽は大地をめぐり、天球をめぐる2016年01月20日 20時00分44秒

朝は白かった街が、帰りにはいつもの乾いた街になっていました。
ちょっと残念な気もしますが、坂道で転ぶ恐怖は免れました。

   ★

さて、昨日のつづき。


上は、円環目盛りの最も短い(=北極に近い)位置を、日本付近に合わせた状態です。円環目盛りには月の名称が順番に書かれており、この状態だと、日本に一番近いのは6月です。


目盛りをぐるっと180度回すと、今度は一番長い(=北極から遠い)位置が、日本の真南に来て、月名は12月に替わります。

6月と12月というのは、いうまでもなく夏至と冬至の月です。
そのとき、円環目盛りの位置が地図上のどこに来ているかを見ると、それぞれ北回帰線と南回帰線の位置にあることが分かります。つまり、この円環目盛りは、太陽が真上から直射する地点(あるいは緯度)の経年変化を表しているのでした。

その場所と現在地の緯度差を考えれば、その時々の太陽の南中高度も、ただちに分かります。盤の裏面に書かれていた「様々な月における、地球の太陽に対する傾きを示す」云々という説明文は、そのことを意味しているのでしょう。

   ★

…という理解で、一応はいいと思うのですが、ここで今少し想像力を働かせると、この道具のさらなる「妙味」が感じられるように思います。

たとえば、この世界地図と同大の透明な円板があって、地図に重なっていると想像してみます。そして、円板には星図が描かれており、天の北極を中心に、くるくる回るようになっているとします。

(青:天の北極、赤:天の赤道、黄:黄道)

ちょうど、この星座早見のような感じです(ただし、青い地紙の部分は透明になっています)。回転軸の位置にくるのは北極星で、小熊座の尻尾に当ります。そして、その周りを大熊座やカシオペヤ座が取り巻き、さらにその外側には、黄道十二星座を結ぶように、黄道が描き込まれている…と、想像してみます。

星座早見と見比べると分かりますが、世界地図上を回る円環目盛りは、実は天球上に固定された「黄道」と同じものです。したがって、この円環は、透明な星座を描き込んだ「仮想天球図」の一部と見なすことができます。

ひとたびそうと分かれば、クルクル回転すべきは円環でなしに、むしろ世界地図のほうだと分かるでしょう。不動の天球の下、毎日一回転する大地。そして太陽のほうは、この円環の上を1年かけてゆっくり一周するわけです。


太陽の位置を考慮すると、太陽のある側は当然昼間で、反対側は夜です。そして、地上から観測できる星は、夜側(=太陽と反対側)の星座だけであり、太陽の移動につれて、夜空にうかぶ星座も、一年かけてゆっくり交替していくことになります。

   ★

こんなふうに、透明な星座を心眼で思い浮かべつつ、この道具を操作すれば、天体や地球の振る舞いが生き生きとイメージできますし、同時にこれは天動説的宇宙像ですから、昔々の人がどんなイメージで星空を仰いでいたかも分かります。

この辺が、この道具の「妙味」のように感じられます。

(この項、オマケとしてさらにもう1回続けます)

陽は西より出でて東に没する2016年01月21日 22時41分39秒

(昨日のつづき)

昨日のように考えると、ある日・ある時刻に、円環が地球上のどこに位置しているかは、あまり深い意味を持ちません。なぜなら、黄道が埋め込まれているのは、あくまでも天球であって、地球ではないからです。そして、地球と円環の位置関係は、地球の自転によってめまぐるしく変わるからです。

ただ、次のようにさらに想像を広げると、円環(黄道)と地球上の特定の地点は、不可分の関係性を帯びてきます。
それは、地球があるとき突然自転をするのをやめたら…と想像することです。

(画像再掲)

日本が夏至の日の真昼を迎えた頃、地球の自転がピタッと止まったとします。
こうなると、昼も夜もなく、太陽は24時間輝き続け、日本は灼熱地獄と化します。

季節が7月になり、8月になり、太陽は少しずつ高度を下げていきますが、依然空に浮かびっぱなしで、9月下旬のお彼岸を迎える頃、ようやく太陽は東の地平線に没します。(太陽が日周運動をせず、年周運動だけだったら、それは黄道上をじりじりと西から東と動いていきます。)

日没の後は、長い長い夜の始まりです。
太陽は半年かけて地球の裏側を舐めるように移動し、その間、日本は真っ暗な酷寒の季節を経験します。

そして3月の春分の日に、再び太陽は西の地平線から顔を出します。

地球の自転が失われ、公転だけが残れば、この円環は太陽が地球を直射するポイントを結んだもの(すなわち黄道の真下)を表わすことになり、この経路上を、1年かけて太陽が悠然と―いささか不遜とも思える態度で―移動していく様が、まざまざと思い浮かびます。

   ★

まあ、こんなふうに夢想にふけったところで、得るものは少ないですが、こんな簡単な道具一つで雄大な気分を味わえるなら、実にリーズナブルなものです。

天と地と2016年01月22日 22時33分36秒

これも連想尻取りめきますが、天球と地球を直接対応させる…という発想が生んだものとして、こんな品があります。

(カードの裏面は無地)

星座絵と世界のあちこちの地図が印刷された「トランプ」。
トランプといっても、ハートやスペードのマークはありません。
ルールは不明ですが、何らかのカードゲームに用いたらしい、60枚のカードセットです。


箱の中に入っていた説明書には、以下のように書かれています。

「この2004年に印刷されたトランプセットは、スペインのヴィトリア・ガステイス(Vitoria-Gasteiz)に立地し、アラバ地方名誉評議会(Excma. Diputación Foral de Álava)が所有している、「アラバ県『フォルニエ』トランプ博物館」(”Fournier” CARDS MUSEUM IN ALAVA)のコレクションから見出されたオリジナルを復刻したものです。」

固有名詞が多くて分かりにくいですが、アラバはフランスとの国境に近い、スペイン・バスク地方の県で、ヴィトリア・ガステイスはその県庁所在地。そして「フォルニエ」というのは、同地で19世紀から続くトランプの老舗メーカーで、同社のトランプ・コレクションは世界でも有数のものだそうです。


今回登場の復刻品も、そのコレクションの一部で、オリジナルは1828年にイギリスで出たもの…と箱には書かれています。

   ★


各カードには、星座絵や地図の他、左肩のところに「S26°」とか「N46°」といった数字が印刷されています。大方想像がつくように、これは「南緯26度」、「北緯46度」の意味です(注)。


で、たとえば南緯13度のカード。
星図の方は「やぎ座」で、地図のほうはブラジルです。
両方の緯度が同じということは、ブラジルに行けば、南中時には「やぎ座」が頭の真上に見えるということです。


同じように、フランスに行けばペルセウス座が、


アフリカのギニアに行けばオリオン座が、頭上高く輝くというのですが、これらの国々で該当の星座が格別重視されている風でもありませんし、「だからどうした?」という思いが、チラッと頭をかすめます。そもそも、人間は頭上のことは、かえって意識に上りにくいものです。


改めて数えて見ると、
  南の星座は10枚 (1,6,10,13,15,16,26,29,52,60)、
  南の地図は6枚 (1,5,12,13,34,35)
あります(カッコ内の数字は緯度)。

北の方も、いちいち緯度は挙げませんが、星図が20枚に対し地図が24枚で、星図と地図で対が取れているわけでもないし、南と北で対が取れているわけでもありません。緯度の間隔もバラバラです。これで一体どんなゲームをしたのか?

パッと見の印象としては、「面白くてためになる」当時の家庭教育用の品だと思うのですが、いささか企画倒れの感がなきにしもあらず。

   ★

ただ、優美なことは確かです。
天上の星も、遥かな国々も、同じような神秘の香りに満ちていた時代ですから、雄弁なお父さんがいる家庭では、このトランプを手にしながら、話に花が咲いたであろうことは想像に難くありません。

ヴィクトリア時代がまだ幕を開ける前、イギリスに真の田園生活があったとされるジョージ王朝時代の余香が、画面に漂っている気がします。
これは、その優美さを愛でる品なのでしょう。


-------------------------------------------

(注) 空の星たちも、地球上の「北緯・南緯」や「東経・西経」と似た方式を使って位置を表わし、南北方向は天の赤道を基準に「赤緯」で、東西方向は春分点(昨日登場した「黄道」と天の赤道の交点です)を基準に「赤経」で表示します。

赤緯に関しては、「北緯~」に代えて「プラス何度」、「南緯~」に代えて「マイナス何度」という呼び方をするのが普通ですが、このトランプでは天地いずれも「北緯・南緯」と呼んでいます。

ある雪もよいの日に2016年01月23日 20時36分24秒

よお。
―やあ、珍しいね。去年、本八幡で会って以来か。

どうだい、調子のほうは?
―まあ、元気は元気だけど、この寒さじゃ外に出るのもおっくうで。

まったくだ。ほら、とうとう白いものが降ってきたぜ。
―え?…あ、本当だ。

これは手土産。お前さんの好きな濁り酒。
―あれ、ずいぶん気が利くじゃないか。

持つべきものは友だろ? さあ、さっそく味見といこうぜ。
―なんだ、自分が飲みたかっただけか。まあいいや、器はこのグラスでいいかい。…ああ、いい香りだ。

うん、なかなかいける。
―それにしても、雪を見ながら、こうして酒を飲んでいると、なんだか昔のことを思い出すね。思えば君と出会ってもう10年か。十年ひと昔というけど、いつの間にかずいぶん長い付き合いになったね。

お得意の回顧モードだな。まあ、十年一日とも言うけどな。
―はは、たしかに長いようで、あっという間だったもんね。

お前さんが、例のブログを書き始めたのがちょうど10年前。どうだい、振り返っての感想は?
―うーん、正直、あんまり感慨も湧かないね。これが例えば、10年かけてゆっくり成長して今がある…というなら、己の軌跡を顧みて、多少の感慨も湧くんだろうけど、10年前の自分が書いているのをみても、結局今とおんなじようなテーマで、おんなじような感想を書き付けているんだから、それこそ十年一日、長い一日をずっと過ごしているような気がするよ。

10年前から完成されてたっていうなら、立派なもんじゃないか。
―ほら、そうやってまた茶化す。まあ、成長がないことを完成というなら、そう言ってもいいさ。

まあ、何にせよ10年間よく続いたよ。それはお世辞抜きで感心する。もっと自分をいたわってやれよ。
―ありがとう。そうするとしようか。

   ★

さて、このあと二人は、この10年間の世間の変化をあれこれ語り合いながら、だらしなく酔いつぶれてしまうのですが、私も文中の青い人と同様、10周年を迎えたからといって、格別の感想は何も思い浮かびません。
…いや、本当はいろいろあるのですが、どうもうまく文字にできないので、白いものが舞い飛ぶ夜空を思いつつ、黙って独酌することにします。

とにもかくにも、今しばらくは続く予定ですので、懲りずにお付き合い願えれば幸いです。

いとも豪華なる天文時計2016年01月24日 16時45分10秒

ブログを開設して10年と1日目。
初心に帰って、真の天文古玩とはこういうものだ!というのをボンと出して、おのれに活を入れることにします。

   ★

あの伝統あるオークション会社のサザビーズも、時代の流れを受けて、最近はeBayに出品しているらしいのですが、そこで見たのがこんな品。


1575年頃、南ドイツで作られた卓上天文時計です。
むう、これは…!

驚きついでに、大きな写真も勝手に貼ってしまうと、こんな感じです。


サザビーズの評価額は2万ドル~4万ドル、スタートは1万6千ドルから。
落札額に加えて、さらに25%の手数料をサザビーズに払わないといけないので、相当豪儀な買い物ですが、後世の手がかなり入っていること、また現状では時計として機能せず、カチコチ動かすためには、大がかりな修繕が必要であることから、評価はこれでも低めに抑えられているのでしょう。


まあ、動かないにしてもすごいです。
それこそ皇帝ルドルフのヴンダーカンマーにあってもおかしくない風格があります。
出来ることなら、こういうものを脇に置き、豪奢な星図を眺めながら、憂鬱そうな表情で、人間の有限性に思いを馳せる…なんて乙に澄ましてみたいものです。

   ★

果たしてこの品、いくらで落札されるのか。
オークションの終了は5日後です。