銀の月、ガラスの月2016年03月12日 13時22分46秒



白く輝くスターリングシルバーの月。


ダブルムーン。


地球照のように仄暗く輝くのは凸レンズ。


この品はペンダントのように胸元にぶら下げて、ルーペとして使うもので、最初はオブジェのつもりで手にしましたが、このところの目の衰えを考えると、これを実用の品として使う日も近いでしょう。


月の裏の顔。
ひょうきんな表の顔と打って変わって、物思わし気な憂いの表情が浮かんでいます。
人間も月もこの辺は同じですね。

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今日の月齢は3。
気まぐれな雲さえなければ、文字通りの三日月がきれいに眺められるはず。

お知らせ2016年03月13日 20時46分44秒

年度末のバタバタのため、しばらく記事の間隔が空きます。

めぐる命2016年03月19日 15時01分36秒

しばらくぶりに家でノンビリしています。
雨が上がり、空をゆく輪郭のぼやけた雲に、のどかな春を感じます。

こうして春が来て、夏になり、秋が来て、冬が来る。
仕事で忙しい忙しいと言いながら、その仕事だって、いずれは終わります。
そして、ぼんやりと季節の移ろいを眺めながら、死んでいくのでしょう。

私ぐらいの齢だと、まだ自分の死をそれほど切実に感じませんが、それでも他者の死はこれまでずいぶん目にしました。人はやっぱり死ぬものです。電車の中でも、「100年後には、ここにいる人はみんな居ないのだなあ…」と、何だか妙にしみじみすることがあります。

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命の不思議さを封じ込めた木箱。


中身は蛙の発生過程を示すプレパラート標本です。



受精卵から、桑実胚、嚢胚を経て原腸胚まで10枚がセットになっています。


第1プレパラートの受精卵と第10プレパラートの原腸胚後期の比較。
たった1個の細胞が分裂を繰り返し、消化管の基礎である原腸が形成される段階まで、通常の環境だとおよそ3日以内に完了します。

しかし、この3日間で個体が経験するものの何と大きなことか。
個体発生が系統発生を繰り返すというのは、今や古風な学説かもしれませんが、それでもやはりその変化は、単細胞生物から多細胞生物へという、何億年にも及ぶ進化の歴史に匹敵する大した「事件」なのだと思います。


このパースペクティブは、生命に刻まれた「時間」そのものです。

原腸胚のあとは、神経管が形成される神経胚、口と尾が形成される尾芽胚を経て、1匹のオタマジャクシになります。そしてその身体はさらに変化を続けてカエルとなり、次の世代を産み落とし、死んでいきます。

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メーカーの科学共栄社は、験電瓶の項に既出(http://mononoke.asablo.jp/blog/2014/05/20/7317102)。


ダメ。ゼッタイ。2016年03月20日 15時49分21秒

世の中には「8・2の法則」というのがありますね。

つまり「結果の8割は、2割の要素が決める」という経験則で、例えば要点をしぼって勉強すれば、全体の2割覚えただけで80点とれるとか、会社の利益の8割は営業成績上位2割の社員が上げているとか、ホントかウソかは知りませんが、そんなような内容で、提唱者の名をとって「パレートの法則」ともいうそうです。

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コレクションの場合も、ジャンルごとにいわゆる「must have」アイテムがまずあって、その周辺をベーシック・アイテムが取り巻き、さらにその外側にマイナー・アイテムがロングテール状に存在する…みたいなイメージがあって、中核の2割を集めれば、コレクターとしての満足感・達成感は、8割がた得られるような気は確かにします。

おそらく、そこで踏みとどまるのが人として穏当な、賢い生き方なのでしょう。
さらに10割の満足感を得ようと思ったら、残り2割のために、それまでの4倍もの苦労を重ねなければなりません。これは確かに常軌を逸しています。でも、コレクター気質は本質的に狂気をはらんでいるので、往々にして彼らはその茨道を歩もうとします。

以前も書いたように、私自身は別にコレクターではないんですが、漫然とモノを買い続けているうちに、最近ついに「2割の線」を越えた自覚があります。まあ、これは一種の自慢の裏返しで、本人は悪いこととはちっとも思ってないんですが、ただこの先は長いぞ…という予兆を感じて、改めて身の引き締まる思いです。

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…とか何とか、ここまでは実にオメデタイ話で、「馬鹿な奴だ」の一言で片付きますが、ここで私は世人に強く注意を喚起しておきたいことがあります。

上述の購入量と満足感の比をとれば明らかなように、最初は1つのモノを買えば1、あるいは「must have」アイテムなら、3とか4の満足感があったのに、「2割の線」を超えると、得られる満足感が「零コンマいくつ」に急速に薄まってきます。したがって、昔と同じ満足感を得ようと思ったら、3つも4つも買わないといけないことになりがちです。

そのせいで、本人も何かおかしい…と感じながら、どこがおかしいのか気づかないまま、強迫的に蒐集(購入)を続けている例が、世間には少なくないと睨んでいます。

これはまさに、より大量の、より強い薬物を求める薬物中毒者と同じ状態です。
徐々に耐性が形成されて依存症状が強まる―。

背後にある生理的メカニズムは全く違いますが、症状としてはそれに類したことが蒐集行為にも伴うわけです。ここに蒐集行為の大きな危険性があり、世のコレクターに警鐘を鳴らしたい点です。

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蒐集物を家族に隠す。
モノが増えてないと嘘をつく。
蒐集のことを考えて仕事がおろそかになる。

…というのは、依存症に典型的に見られる行動で、こうなるとちょっと本気で心配しないといけません。

星の子どもたち2016年03月21日 17時51分55秒

穏やかな春分の日。
桜の開花宣言も出て、季節は春たけなわに向かいつつあります。

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さて、天文古玩におけるマイナー・アイテムというと、たとえば星座の切手。
しかも、こんな切手は間違いなくマイナーだと思います。


ウクライナの12星座切手(2008年発行)。

別に切手としてはマイナーではなくて、かわいい絵柄で一部では人気だと思うのですが、天文古玩趣味からすると、ぜんぜん「must have」ではないでしょう。
単に星座がモチーフという以上の接点はないし、そもそも理科趣味とはまるで関係がありません。…いや、多少はあるんでしょうか?いずれにしても、それも分からないぐらい、天文古玩趣味の中核からは遠いです。

しかし、古代から受け継がれた12星座が、その表現を変えながら、こうして今も重視されているという事実は、我々が文化の連続性の中に生きている証(あかし)であり、一見他愛ない星座占いにしても、一つの文化事象として見た場合、その見た目ほど他愛ないわけではありません。

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…と、無理やり理屈をこねるのはやめて、どうですか、この切手。
かわいくないですか?



かに座やうお座の着ぐるみもかわいいし、



やぎ座やふたご座のポーズもかわいいです。
そして極めつけにかわいいのは、


てんびん座と…


みずがめ座。
これは古代人もびっくりの図像表現。かわいすぎる。

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ここにあふれている「かわいさ」には、古代オリエント・ギリシャの神話以上に、現代日本のサンリオ的な「かわいい文化」が影響している可能性もあるんでしょうか。ちょっとそんな気がします。それとも、ウクライナは―いろいろゴタゴタしていますが―やっぱり子供にやさしい国なんでしょうか。

(背景は金属光沢のあるインクで刷られていて、印刷もきれいです。)

九谷を愛でる2016年03月22日 20時48分26秒

今日もマイナーな話題を続けます。

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先日、九谷焼の皿を買いました。
なぜ「天文古玩」に陶芸の話題が出るかといえば、それは通り一遍の皿ではなく、そこに濃厚な天文古玩的味わいを感じたからです。


直径約16センチの小ぶりの皿。
見込み中央に書かれた文字を見ると、昭和58年4月25日に焼かれたもののようです。


青、緑、黄、紫…いずれも九谷の基本色ですが、同じ焼成条件でも、釉薬の調合によって実に多彩な表情を見せてくれるものです。まさに釉薬のパレット。


各色の脇には、化学式や配合比の詳細なメモが焼付けてあり、陶芸家はこういう研究を日々続けているのかと、まざまざと知りました。
すぐれた陶芸家は、一面すぐれた研究者でもあるのですね。

素材の調合を変え、焼成を繰り返し、理想の発色を求める。
青色ダイオードの開発時もそうでしたし、新しいものを開発する過程では、多かれ少なかれ経験するプロセスでしょう。


でも、この皿はそうした理屈をぬきにしても、やっぱり美しいです。
白地に映える色のグラデーション。余白に書き込まれた筆跡。
総体として美しいと感じます。


「理科趣味陶芸」というジャンルが仮にあるとすれば、これこそ、その優品。
中島誠之助氏のお得意のセリフが耳元で聞こえてくるようです。

コレクターの夢2016年03月24日 20時47分55秒

何かとバタバタする時期ですが、記事の方はぽつぽつ書き継いでいきます。

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マイナーなものが続きましたが、では、天文古玩の中核的アイテムは何か?といえば、もちろん、星座早見であり、星図であり、天文古書であり、さらに天球儀や、オーラリーや、望遠鏡なんかも是非ほしいね…と、そんなところに話は収斂すると思います。

そして星座早見にしろ、星図にしろ、古書にしろ、それぞれがまた独自の蒐集領域を形成しているので、その中にまた中核的アイテムと周辺アイテムがあって…というふうに話は続きます。その複雑さゆえに、同じ趣味を有するコレクターであっても、互いのコレクションは独自の個性を獲得し、唯一無二のものとなり得るわけです。

そして、一層話が込み入ってくるのは、中核といい、周辺といっても、結局それは予算次第だということです。「100万円の予算で選ぶなら、これぞmust have」という品も、私を含め大方の人にとっては、周辺的な品とならざるを得ないでしょう。

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コレクターにとって、この蒐集と予算の関係は、古くて新しい永遠の課題です。
先日、あるコレクターの方と、この件でやりとりをする機会がありました。
その人はさらに別のコレクターとも議論したそうで、やっぱりみんなに共通するテーマなのでしょう。

コレクター氏曰く、

 お金と蒐集の関係については、最近他のコレクターとも意見を交わしました。まあ、本当のことは分かりませんが、もしあなたが無尽蔵にお金を持っていたとしても、あなたが得られる楽しみには、たぶん限りがあるんじゃないでしょうか。それにもちろん(お金がなくたって)とびきり素敵な品をいつかは購入できるかもしれませんしね。
 ここで私は祖母がいつも言っていた言葉を思い出さずにおれません。叶わぬ夢を持つことは良くないことかもしれない。でもね、何も夢が無いよりはましよ…。」

お金は無いより有る方がいいのかもしれませんが、有れば有るほどいいというような単純なものでもありませんし、お金がなくたって、コレクター氏のお祖母さんが言うように、人間には誰しも「夢」という大きな財産があるのです。

そして、コレクションにおいて、形あるモノと同じぐらい重要なのがイマジネーションであり、モノとお金の欠落は、豊かな夢と想像力で補うことができるはずだ…と思うのです。もっと言うと、形あるモノの背後に、夢と想像力を働かせてストーリーを紡ぐのがコレクターという存在であり、重要なのはむしろ後者のような気がします。

彼(コレクター)はモノを集めているように見えて、実は夢を集めているのだ…というのは、ちょっと極端な物言いかもしれませんが、でも過半真実だと思います。

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と言って、じゃあ夢だけあればいいのかというと、やっぱりそこには形あるモノもないとツマラナイわけで、この辺の複雑な心模様はなかなか一言では言い表せません。
―たぶん、夢はモノという触媒があることによって、いっそうよく花開くのでしょう。

(何だか書いているうちに論旨がぼやけてきましたが、そもそも「永遠の課題」なので、簡単に答は出ない気もします。)

一年は春とともに2016年03月26日 07時57分11秒

天文学史のメーリングリストで「Lady Day」の話題が流れてきました。

「Lady Day」とは何だろうと思って調べたら、昨日3月25日は、天使ガブリエルが聖母マリアに受胎告知をした「お告げの祝日(Annunciation Day)」に当り、これを英語圏では「Lady Day」とも称するのだそうです。

イギリスでは、この日が中世以来「1年の始まり」で、1月1日が年初と宣言された1752年まで、その慣行は続いた…と、Wikipediaは教えてくれます。

(レオナルド・ダ・ヴィンチ『受胎告知』。Wikipedia 「Lady Day」の項より)

さらにまた、現在もイギリスで会計年度が4月に始まるのは、その名残であり、旧英領のインドや香港、南アフリカなどでも同様ということも知りました。

イスラム圏のイランでも、会計年度は春分の日に始まるそうですし、たいてい4月中に祝われる復活祭(今年は西方教会では3月27日、東方教会は5月1日だそうです)の祝祭ムードも相まって、春の訪れと共に1年が始まるという感覚は、日本だけでなく世界のあちこちにあるようです。

気分一新の時期。
日々いろいろなことがありますが、心に風を通わせて、新たな一歩を踏み出したいです。

春の星座早見2016年03月26日 08時06分09秒

(本日は連投です)

一昨日登場したコレクター氏とは、彼から星座早見盤を購入したことがきっかけで、やりとりが始まりました。

やりとりの中で、スイスにある彼の部屋の写真も見せてもらい、ぜひこのブログでご紹介したかったのですが、「それはちょっと…」とご本人が辞退されたので控えます。

でも、どうか想像してみてください。温もりのある白木の内装の部屋に、古書が並び、アンティーク望遠鏡が並び、天球儀やテルリアンや星座早見が置かれ、ところどころスポットが当たっている、いかにも居心地の良さそうな素敵な部屋を。
天文古玩的には、まさに理想の部屋と言っていいです。

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さて、その部屋にかつて置かれていた早見盤がこちらです。

(全体の差し渡しは約30cm、星図盤のみだと直径約28cm)

青い星図盤と若草色の地平盤の対比が美しく、いかにも春にふさしい感じです。
おそらく1920~30年代、にドイツのMang社から出たもので、同社の星座早見は、古いバージョンだと黒い星図盤に臙脂色の地平盤で、それはそれで渋い魅力がありますけれど、この新バージョンの軽やかなカラーリングも捨てがたいです。


北極星を探す目当てとなる、おおぐま座とこぐま座は赤く彩色されています。
また、よく目をこらすと、かすかに星座絵も施されています。


裏面は説明がびっしり。


この早見盤の大きな特徴は、金と銀の小円が、目盛りを刻んだバーに沿って動かせるようになっていることです。

ドイツ語があれなのですが、金は太陽、銀は月を表わすマーカーのようです。
その日の南中高度と出没時刻が分かれば、それを元に両者の位置をセットすることができ、それによって太陽・月・星座の位置関係も分かるし、地平盤を回せば、その日周運動もシミュレートできる仕組みです。(理科年表の類を参照すれば、もちろん惑星の動きにも応用できます。)


ドイツ語の壁で調べが行き届きませんが、下に挙げたページを参照すると、マング社は Adolf Mang (1849-1933) が、独・シュトゥットガルトで始めた天文・地理教具メーカーで、星座早見以外にも天球儀・地球儀、テルリアンなどを販売していました。世紀の変わり目をまたぐ1895~1920年頃が盛業期で、1933年にアドルフの死とともに活動を終えたようです。



【参考】
■Scientific Curiosities
http://www.blenders.se/ebay/me/planet/history/mang.html



秋の星座早見とその秘密2016年03月27日 07時57分11秒

昨日のおまけ…というわけでもないですが、Mang 社の古いタイプの早見盤を載せます。


昨日の早見盤が早春のイメージとすれば、このシックな黒と臙脂のコントラストは、ちょっと晩秋をイメージさせます。


附属の説明書を見ると、この古いタイプにも、本来2本の目盛りバーと日月マーカーが付属していたはずですが、手元の早見盤からは失われていて、代わりに鋼の薄板を加工したバーが1本、割ピンで取り付けてあります(以前の持ち主の手わざでしょう)。


(裏面)

完品の状態は、昨日の参考ページに挙げた、トマス・サンドベリ氏(スウェーデンの恐るべきコレクター)のサイトに、写真入りで紹介されていますが、そちらはマホガニー製のスタンドまで付属していて、非常に堂々としています。

時代的には、氏が言うように、1900年前後に売り出されたものと思いますが、手元の解説書には1917年の表記があるので、その頃までは製造が続いていたようです。
(…となると、昨日の新バージョンも、「1920年代」というよりは、「1920~30年代」と幅を持たせた方が安全なので、そのように訂正しておきました。)


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ときに、この早見盤。
日月マーカーの存在以外にも、きわめて特徴的な点があることを、昨日のコメント欄で、S.Uさんにご教示いただきました。

(日本天文学会編の三省堂版星座早見より、オリオン座が南中した空)

上が普通の早見盤の星座表示です。


そして、こちらがMang 社の星座表示。

どうです、お分かりになりますか?
天の川の流れる向きで一目瞭然ですが、Mang 社の早見盤は、図柄が左右逆転しています(つまり、天球儀や一部の古星図と同様の表示方式)。

それが何故かというのは、昨日のコメント欄にも書いたように、Mang 社の早見盤は、普通の早見盤のように頭上にかざして使うのではなく、普通に手に持って、上から見下ろすように使うからだ…と思います(解説書にはその辺の説明があるはずですが、残念ながら読めません)。

他にも探せば類例はあるかもしれませんが、かなり珍しいタイプであることは確かで、星座早見盤史を編む上で、これは落とせぬ品ではないでしょうか。