紫煙と顕微鏡 ― 2016年04月10日 17時20分29秒
下に掲げたのは、イギリスのJohn Player & Sonsのシガレットカード。
「隠された美」と題する、1929年に出た25枚のセットです。
ご覧のとおり、顕微鏡観察をテーマにした、いかにも理科趣味に富んだシリーズ。
「隠された美」と題する、1929年に出た25枚のセットです。
ご覧のとおり、顕微鏡観察をテーマにした、いかにも理科趣味に富んだシリーズ。
John Player & Sonsは19世紀の前半にさかのぼる古いタバコメーカーですが、1901年に他社と大同団結して「インペリアル・タバコ会社」を結成し、その子会社という位置づけになりました。
(常に絵になるボルボックス。英名は“Traveling Globes”)
1929年という年は、すでにヴィクトリア時代はおろか、エドワード時代も過去のものとなっていましたから、かつてイギリス中を席捲した博物趣味は影を潜め、辛うじてその名残が、こうして子供向けのシガレットカード(煙草を吸ったのはお父さんですが)から、かすかに紫煙のように立ち昇っているわけです。
カードの裏面、シリーズの第1番には「隠された美」のタイトルで、序文のようなものが記されています。
「昼となく夜となく、我々の周囲には自然という絵本が常に開かれ、我々の美を愛する心に訴えかけている。そして自然の『限りなき秘密の書』の中に、その『隠された美』を覗き見ることも、我々には許されている。たとえ我々の目にはありふれて、些末で退屈なものに映ろうとも、顕微鏡で眺めると、そこにはしばしば思わぬ美しさが現れる。ヒキガエルの頭部に生ずるという伝説の宝石のように、『隠された美』は全く思いもよらぬ所に存在するのだ。」
さすがにもう「神の摂理」を云々する時代ではないですね。文章の書き手も、純粋に美的見地から顕微鏡趣味を語っています。
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このカードセットは、月兎社さんから青い箱に入って届きました。
シガレットカードの存在自体は、最初別の人から教えられたのですが、月兎社の主宰者である加藤郁美さんには、『シガレット帖』(倉敷意匠計画室、2011)という美しい著書もあり、その不思議な魅力を教えていただいたのは、何といっても月兎社さんによるところが大きいです。
ちなみに、コレクター向けのカタログに記載された、このセットの2015年現在の評価額は7.5英ポンド、1,200円ぐらいだそうで、そう高いものではありません。手ごろな価格で楽しめるのも、シガレットカードの魅力の1つです。
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さて、今日のメモ書きは「顕微鏡の色」について。
19世紀の顕微鏡は、おおむね真鍮製で、表面はラッカー塗膜で保護され、まばゆい金色の光を放っていました。
その後、世紀の替わり目あたりから金属加工技術が様変わりして、各種の鋼材(鉄および鉄合金)が多用されるようになり、顕微鏡もアイアン・ボディに変身しました。同時に表面塗装も、ストーブ・エナメル(エナメル塗膜を加熱固化したもの)が主流になり、顕微鏡は金色から一転して「黒いもの」になったのです。(今では白い顕微鏡が主流ですが、ちょっと前まで、顕微鏡はおしなべて黒かったです。)
1920年代は、ちょうど真鍮と鉄が共存した時代で、黒いボディのあちこちに真鍮のパーツが金色に光っていました。そういう意味で、このシガレットカードに登場する顕微鏡の姿は、いかにも1920年代チックな感じがします。
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