タルホ的なるもの…都会の月2016年05月12日 22時12分54秒

時は、
ところは、都会(まち)
登場人物は、月、彗星、土星
あるいは飛行機乗り、オートバイ乗り、マジシャン、それに黒猫―

彼らがバーでグラスを傾け、闇を徘徊し、シガレットを口にすれば、私のイメージするタルホ界は、容易に成立します。

まあ、これはベタな『一千一秒物語』的世界というか、ステロタイプな足穂理解だと思いますが、それだけに強固なものがあって、足穂氏が見せるさまざまな顔の中でも、今に至るまでいちばん人気のある顔でしょう。そして、やっぱり「カッコイイ」です。

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そんなわけで、今や摩天楼に浮かぶ月を見ただけで、反射的にタルホ的ストーリーが思い浮かびます。


月のニューヨーク2景。
手前のモノクロは1900年代初頭、奥のカラーは1920年代の絵葉書です。


20年間で、街のスカイラインはかなり変わりましたが、いずれも同時代の日本では考えられない景観で、さしもの足穂氏にとっても、幻の都のように思えたかもしれません。

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例の『一千一秒物語』には、「ニューヨークから帰って来た人の話」というのがあって、下がその全文。


「このへんな話も ほんとうにあったことか? それともうそであるか? それは何ともわからないのである――」

たしかにさっぱり分からない話です。
あるいは、ニューヨークの高楼で火星の写真を撮ろうとすること自体、日常に亀裂を入れかねない、剣呑な振る舞いである…と、足穂氏は言いたかったのかもしれません。

まあ、真っ赤な火星も剣呑ですが、一見おだやかな月も、その実大いに剣呑であることを、タルホ愛読者はよく知っています。