1878年、パリでのある試み2016年06月26日 10時17分17秒

無線通信技術の歴史は、1872年、アメリカのマーロン・ルーミス(1826-1886)が、無線通信に関する特許を取得したことに始まります。その後、エジソンやマルコーニらの技術開発競争があって、無線通信は急速に実用化されていきました。

ちょうど同じ頃、1877年に、イタリアのスキャパレリが火星の「運河」を報告し、高度な文明を持った「火星人」の存在が、急速に実証科学の研究対象として俎上に乗ることになりました(火星人の存在そのものは、それ以前から多くの人の好奇と思弁の対象となっていましたが、それが改めて「観測」の対象となったわけです)。

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こうした科学と技術の大変革期に開催された、1878年のパリ万博では、数々の奇想科学の成果が花開きました。

フランスのオーギュスタン・ムショー(Augustin Mouchot、1825-1911)による、火星人――あるいはさらに遠くの異星人――と、電波を使って会話するという試みは、その最大のものといってよく、ムショーの天才が生み出した銀色のパラボラアンテナは、夕闇迫るパリの公園から天空を睨み、火星人や金星人との対話という、前代未聞のデモンストレーションを繰り広げて、人々を大いに驚かせたのです。

(A. Mouchot, La Chaleur Solaire et ses Application Industrielles. Gauthier-Villars (Paris), 1879. 挿図より)

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…というのは、まったくのウソです。

19世紀のパリに、本当にパラボラアンテナが登場していたら、オーパーツ的で面白いのですが、もちろんそんなはずはありません。上の品の正体は「太陽光集熱器」です。

先日、antique Salonさんを訪ねたとき、オーナーの市さんが「そういえば、こんなのを送ってきましたよ」と言って、フランスの某古書店のカタログを貸してくださり、パラパラ見ていたら、上の図が目に留まり、瞬時に上のような空想が浮かんだので、出来心でウソをつきました。すみません。

ときに、私はぜんぜん知らなかったのですが、ムショーは太陽エネルギーの利用史では有名な人だそうで、「Augustin Mouchot」で検索すると、上の図も含め、その発明品の数々が、ずらずら出てきます。

まあ、通信はウソにしても、天体から放出された電磁波を受け止めて、それを人間の役に立てた…という意味で、ムショーが偉大な先人であったことはウソではありません。