天文古書に時は流れる(1)…天文台と機材2016年09月06日 06時09分15秒

(前回のつづき)

一口に「天文古書」といいますが、その古さもいろいろです。
例えば200年前の本と100年前の本では、そこに100年の時代差があるので、同じ「昔」といっても、その「昔」の指し示すものはずいぶん違います。

ここでウーレの『星界の驚異』を素材に、天文古書に刻まれた時代について、ちょっと考えてみます。

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前回登場した、4種の『星界の驚異』。

いちばん上の1860年版から、その下の1923年版まで、経過した時の流れは63年間。普通に考えても、結構長い時間ですが、さらに科学技術の進歩という点から考えると、この60年余りは、とても大きな変化のあった時代です。


これが1860年版のタイトルページ。
天文学を象徴するイコンを並べたのでしょうが、いかにも古風な感じがします。


こうした図像は、1883年版の表紙↑にも登場しており、そこに連続性も感じますが、イメージはともかく、両者を隔てる23年間に、天文学のハード面はずいぶん変わりました。

例えば、その最先端の現場である天文台と機材の図を見比べてみます。
以下3枚は、1860年版に描かれた天文台と“大型”機材のイメージ。




その後、1883年版になると、天文台のイメージは下のように変わります。



端的にいって、19世紀の後半は機材の大型化が目覚ましく進んだ時代で、それとともに天文学はきっちり組織化されたビッグサイエンスとなり、アマチュアとプロの差も歴然となったのでした。

すぐ上の図はウィーン天文台の内部を描いたものですが、これは1900年版にもそのまま登場します。そして1923年版になると、天文台のイメージはさらにこう変わります。


カリフォルニアのウィルソン山天文台の150cm径反射望遠鏡の雄姿。
この一枚の写真こそ、天文学の変化を雄弁に物語るものです。

即ちこの23年間に、
 天文学研究の中心は、ヨーロッパからアメリカと移り、
  大望遠鏡の主流は、屈折式から反射式になり、
   第一線の天文台は街を離れ、高山の頂に移動したのです。

(画像再掲)

雪山の上に輝く満天の星と、それを眺める孤独な男という1923年版の表紙絵も、そうした時代の変化を反映したものと思います。

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そして、時代の変化は、描かれた機材に読み取れるばかりではありません。

(この項つづく)