天文トランプ初期の佳品: ハルスデルファーの星座トランプ(補遺)2016年11月04日 06時46分01秒

今日はオマケの話題。
ハルスデルファーの星座トランプが売られているのを見つけました。
といっても、それは4年前のサザビーズのオークションに登場したもので、現物はすでにどこかの誰かの元に旅立っています。


サザビーズの説明では刊年が1674年となっており、マクリーン氏の本では1656年でしたから、両方正しいとすれば、このトランプは、少なくとも20年近く版を重ねたことになります。(以下、それぞれ「マクリーン本」、「サザビーズ本」と呼ぶことにします。)

サザビーズ本は無彩色なので、パッと見の印象はずいぶん違いますが、画像をズームして仔細に比べると、マクリーン本と寸分たがわぬことが分かります。(サザビーズ本には、星名を表すギリシャ文字がありますが、これは後からペンで書き足したものでしょう。)

サザビーズ本が、マクリーン本と明らかに違うのは、星座絵の上部のスート部分を欠くことですが、サザビーズ本のふたご座のカードの上部には、木の葉のスートの葉柄や、髭文字の痕跡が見られるので、もともとスート絵は確かに存在し、それを誰かが切り取ったことが明らかです。

(マクリーン本(部分))

(サザビーズ本(同)。矢印がスートの痕跡)

その真意は不明ですが、その誰かは、これを遊び道具のトランプではない、純粋な「星座カード」として手元に置きたかったのではないでしょうか。そして、詳細に星名を書き加えたのも彼の仕業であり、彼は高価なバイエルの星図帖は買えないけれど、星座トランプなら何とか買える…という、昔の貧しい星好きだったと空想すると、心に温かいものが通います。

   ★

しかし、この星座トランプ。
販売当時は安かったかもしれませんが、今では相当なことになっていて、サザビーズによる評価額は1万~1万5千ポンド。ポンド安の今でも126万~190万円に相当します。実際の落札額は不明ですが、価格だけ見れば、今や本家・バイエルの星図帖に迫る勢いです。

参考として、サザビーズによる解説を一部引用。

 「極めてまれな17世紀の天文トランプの完全セット。〔…〕他にセットで存在するのは、1991年に、ドイツ・トランプ博物館(Deutsches Spielkarten-Museum)で展示された、シルヴィア・マン・コレクション中のセットが唯一(ただし表題カードを欠く)。ロンドンのヴィクトリア・アンド・アルバート博物館には、1枚だけ所蔵されている。」

トランプは、豪華な星図帖のように恭しくしまい込まれるものでもないので、後代に伝わりにくく、後になってみればすこぶる貴重な存在です。(我が家のエフェメラだって、いつかは…と、ひそかに思わなくもないですが、まあ価値が出るのは、さらに300年ぐらい後のことでしょう。)