キノコ本(3)2016年11月12日 11時05分28秒

今日もフランス語のキノコ本。
時代はちょっと下って20世紀初めに出た本です。

Fritz Leuba、
 Les Champignons Comestibles et les Espèces Vénéneuses avec lesquelles
 ils Pourraient être Confondus.(食用キノコ及びそれと間違えやすい有毒種)
 Delachaux et Niestlé (Neuchatel)、1906(第2版)
 判型 35×26cm、本文120p+図版52葉.


昨日の本をさらに上回る、堂々とした大型本。
フランス語の本ですが、著者フリッツ・ロイバの名前がドイツ風なのは、これがスイスで出た本だからです。出版地のヌーシャテルは、現在人口3万人あまりの小都市で、100年前もそれは変らなかったと思いますが、こんな立派な本を出すだけの文化的実力を持っていた…というのは驚きであり、羨ましい環境だと思います。

この本も、キノコ本としてはポピュラーらしく、「Fritz Leuba」で検索すると、バーッと画像が出てきます(例えばロンドンの自然史博物館では全図版を公開しています。http://piclib.nhm.ac.uk/results.asp?txtkeys1=fritz+leuba)。

とはいえ、ここは自前の写真で中身を見ることにします。

   ★


「第1部」と銘打った本文編は、こんなふうにキノコの解説がずらっと続きます。
その記述をただちに読み解くことはできませんが、昨日の本が生物種としてのキノコに注目した著作であるのに対し、この本は書名からして「実用書」の色彩が濃い気がします。


たとえば、本文編の終わりには月替わりのキノコのカレンダーが載っていて、四季折々のキノコを存分に賞味しようという人の手引き書たることを目指しているように読めます。

そして本文に続いて、52枚の多色石版の図版が続きます(厚みのある紙を使っている関係で、図版編は本文以上のボリュームがあります)。


一見して分かるように、本書の最大の特徴は、「キノコの背景が黒い」ということです。


でも、全部が黒いわけでもなくて、白い背景の図版もあります。
ただし、毒キノコは黒、食べられるキノコは白…という明確なルールがあるわけでもなくて、その辺は説明のしやすさ、あるいはそれ以上に作り手の美意識という要素が大きいのかもしれません。


黒地に浮かぶサンゴハリタケ(上)とヤマブシタケ。
不気味な幽霊じみた姿ですが、立派な食用キノコ。


にぎやかなチャワンタケの仲間たち。こちらは陽気な妖精のようです。


いささか大味な図ですが、とにかくこれだけ大きいと圧倒されます。
画面からはみ出るまでに拡大して描かれたキノコ像は、同時に描き手(原画は著者自身のスケッチによるもの)のエネルギーを物語るものでしょう。


上の図と比較すると、葉っぱの緑の差し色や、線画による部分拡大図の存在によって、とたんに「博物画らしさ」が増すのを感じます。


博物画を博物画たらしめている要素や作法というのは、たしかにあるものです。

   ★

なお、著者のフリッツ・ロイバは、タイトルページに「薬剤師(Pharmacien)」とありますが、詳しい経歴は不明です。