キノコ本(4)2016年11月13日 13時10分42秒

キノコ本の話題が続きます。
キノコの絵にそう違いはないのに、ご苦労なことだ…と思われるかもしれませんが、意外にそうでもないよ、ということを書きたいと思います。

   ★

今日の本は、ふたたび19世紀に戻って、1860年にイギリスで出た本です。

M.J. Berkeley
 Outlines of British Fungology (英国産キノコ学概説)
 Lovell Reeve(London)、1860. 本文442p+図版24葉


本の「お国ぶり」を考えると、この本の表情はいかにもイギリス的で、版元による地味で質素な布装丁は、フランスの繊細・華麗を旨とする装丁感覚と好対照をなしています(イギリスでも、この後徐々に装飾性豊かな本が好まれるようになりますが、世紀半ばはまだ地味です)。

(版元イニシャル(LR)の箔押しが唯一の装飾)

著者のバークリー(Miles Joseph Berkeley(1803-1889)は、英語版wikipediaによれば、「イギリスの隠花植物学者にして聖職者。植物病理学の創始者の一人」で、菌類の分類学で名を成した人。(https://en.wikipedia.org/wiki/Miles_Joseph_Berkeley

彼は「~師(Rev.)」の肩書を持つ聖職者ですが、かつての英国国教会の牧師は、宗教者であると同時に、国家の禄を食む一種の社会的身分・富裕層であり、僧籍の傍ら学問的活動に励む人が大勢いました。バークリーもそんな牧師さんの一人なのでしょう。この辺りもイギリス的といえばイギリス的です。


本書のタイトルページ。
正式な表題は、『一千種を超えるキノコの特徴及びイギリス諸島産と記録された全種類の完全なリストを収録した英国産キノコ学概説』という長いものです。


中身はセオリー通りに、まず文字だけの解説篇があって、その後に図譜編が続きます。



この図は石版画ですが、まだ多色石版が普及する前なので、彩色はすべて手彩色。その点に何となく有難味があり、本書の特徴ともなっていますが、この図を見ていかがでしょう、シカールやロイバのキノコ図とは、かなり手触りの違うものを感じられないでしょうか。


たとえば、この不整形なキノコの図。



モヤモヤッとしたキノコの輪郭を表現する線が、いかにもペン画タッチです。どことなく「手塚治虫的な線」と言いますか。そのせいで、本書はこれまで見た3冊の中で、いちばん古い本なのに、いちばん今風の印象を受けます。この辺もヨーロッパ大陸とは異なる、イギリス的肌触りを感じる所以かもしれません。

キノコも多様ですが、本の世界も多様であり、キノコ画の世界も奥が深い…と感じます。(人間も多様だということでしょう。)

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

名前:
メールアドレス:
URL:
コメント:

トラックバック