皇帝天文学2016年11月25日 22時22分17秒

昨日登場したペトルス・アピアヌス(1495-1552)。

一般に与えた影響という点では、1524年に出た『Cosmographia (宇宙誌)』が、彼の主著とされますが、天文古玩的には何といっても、1540年に出た『Astronomicum Caesareum (皇帝天文学)』を挙げなければなりません。

本書は、時の神聖ローマ皇帝・カール5世(在位1519-1556)に捧げられたもので、仰々しいタイトルは、それに由来します。

高さが50cm近くある堂々たる判型。美しい彩色図の数々。
そして何と言っても、天体の運行や天文現象を可視化するため、ヴォルベル(回転盤)を多用した、いわば「仕掛け絵本」の元祖というべき特異な造本。
まさに皇帝の目を喜ばせるに足る快著…というか奇書です。


その中身は、「Astronomicum Caesareum」で検索すれば、↑のような感じでバーッと出てきますが、そんな中、イギリスの王立天文学会が「王立天文学会の至宝(Treasures of the RAS)」と称して、この本を動画で紹介しているのが目に付きました。


約1分半の短い動画ですが、本の質感や、頁をぺらっとめくる感じがよく伝わると思います(探したら、他にも同書を紹介した動画はいくつかありました)。

   ★

個人的な思い出を述べると、以前、千葉市立郷土博物館で開かれた星図展を見学した際、本書をガラスケース越しに眺め、「!」と、声にならぬ声を上げた記憶があります(同館では『天文学教科書』の名称で展示していました)。

本書は1960年代に東独で精巧な複製が作られ、所蔵する館も少なくないですが、16世紀のオリジナルを所蔵するのは、国内では千葉市だけ(のはず)で、これは「千葉の至宝」として、大いに自慢してよいことです(下世話な話、この本は過去のオークションでは、ウン千万円の値が付いています)。

(この項つづく)