至宝登場2016年11月26日 14時57分36秒

『皇帝天文学』については、天文学史の泰斗、オーウェン・ギンガリッチ氏が、著書(邦題 『誰も読まなかったコペルニクス、早川書房、2005)の中で、それにまつわるエピソードを紹介しています。


その1つが、『皇帝天文学』が世に出てから40年後、1580年にティコ・ブラーエがこの本を大枚はたいて購入し、謎の多い天文学者パウル・ヴィッティッヒへの贈り物にした逸話で(そのときヴィッティッヒは、客人としてティコの城に滞在していました)、ティコの献辞が入ったその現物は、現在、シカゴ大学図書館にあるといいます(邦訳139頁以下、「第7章 ヴィッティッヒ・コネクション」参照)。

ギンガリッチ氏は、地動説が知識層にどのように受容されていったか、それをコペルニクスの『天球の回転について』の欄外書き込みを比較考証して跡付けるという、聞くだに大変な研究――何せ『天球…』の初版に限っても世界中に分散所蔵されているのですから――に手を染め、そのあれこれの追想記が、この『誰も読まなかったコペルニクス』で、まあ一種の「古書探偵譚」です。

氏の探索の手は、同時代の天文学書にも及び、『皇帝天文学』の書誌も当然のごとく熟知し、それについてさらにこう記しています(邦訳p.210。途中改行は引用者)。

 「エディツイオン・ライプツィヒは、すばらしい印刷の美術書や、図書館にある貴重な本の複製を刊行してドルを稼ぐことに熱心な東ドイツの大手出版社だった。

16世紀の出版界における偉業の一つは、『回転について』のわずか3年前に出版された、ペトルス・アピアヌスの『皇帝天文学』で、ブラーエが熱烈な思いをこめてヴイツティッヒに贈った豪華な本だ。この本は、回転円盤〔ボルベル〕がふんだんについた天体図をいくつも収め、人の手ですばらしい彩色を施した巨大な二つ折り判だった。一番複雑に組み合わされたボルベルは7層に重なり、プトレマイオス説の周転円の理論をシミュレーションして水星の経度を見つけるという、アナログコンピュータの機能をもっていた。

 エディツイオン・ライプツィヒは、チューリンゲン州中部のゴータの図書館にあった一冊のばらばらになった本をもとにして豪華な複製本を作り上げた。」

これが即ち昨日言及した複製本で、1967年に、全部で750部が作られました。
国内では東大の駒場図書館や、国立天文台の三鷹図書室が所蔵しており、千葉市はオリジナルの他に、複製本も持っているそうです。

複製本の方は、オリジナルのように何千万円ということはなくて、何十万円…というのも言い過ぎで、古書価だと十何万円です(「何十万」と「十何万」は似て非なるもの也)。


だから、我が家にもあります。
十何万というと、「お宝鑑定団」では「はい残念でした」レベルですが、言うまでもなく我が家にあるモノの中では最も高価な部類で、ボーナスをはたいて買った、まさに「我が家の至宝」。

このささやかな至宝を眺めながら、さらにギンガリッチ博士の言葉に耳を傾けてみます。

(この項つづく)

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