旋盤職人の入れ子2016年12月19日 20時20分45秒



いつもの机の上に載っている不思議な物体。



真鍮の立方体に丸い窓をうがち、その中に一回り小さい立方体が入っています。
そして、小さい立方体の中には、さらに小さい立方体が…という具合に、大小5個のキューブが入れ子になっています。


キューブ同士の接合部は、ほぼ点ですから、これは非常に正確な加工技術の賜物であり、切削機械の力を借りたとはいえ、1個の立方体からこれを削り出した職人の技量は、恐るべきものがあります。


そして、このキューブは軸受けにベアリングが入っていて、クルクルと軽やかに回転することで、目を楽しませてくれます。

   ★

この品は、ドイツのヴォルフスブルグに住む人から購入しました。
ドイツ北中部にあるヴォルフスブルグは、新興の工業都市で、あのフォルクスワーゲンの企業城下町。この品は売り手の伯父さん(彼もおそらく同じ町の住人でしょう)が製作したもので、伯父さんはかつて旋盤工場を営んでいたそうです。


売り手の人も詳細は不明のようでしたが、銘板を見ると、おそらく1964年に創業した工場が、79年に創立15周年を迎えた記念として制作されたもので(79年9月31日とあるのはご愛敬)、友人・知人・関係者への配り物とされたのでしょう。と同時に、伯父さんは自社の加工技術の高さを、こうして目に見える形で残しておきたかったのだと思います。

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純粋なオブジェとしても面白いですし、あの名車ビートルの生産を支えたであろう旋盤加工の冴えを偲びつつ、伯父さんの職人魂に乾杯!…といったところですね。

コメント

_ S.U ― 2016年12月20日 07時53分22秒

これは、すさまじい「入れ子」の嵐ですね!
 このドイツの入れ子を見て、台湾の故宮博物館にある清朝の名宝の象牙の入れ子「象牙透雕套球」を思い出しました。確かNHKで見た番組で、その古い象牙の細工が実は西洋の旋盤を使って作られたことが紹介されていて、驚いたことでした。私は、その台湾にある実物をだいぶ前に見たことがあるので、その時はてっきり完全手作業だと思って感心して見ていたのでした。

 ネットで探すと
http://hoonting.blogspot.jp/2014/07/blog-post_3.html
に、中日両国語で紹介されていました(日本語の紹介はなかほどにあります)。確かにドイツの旋盤が出ています。これを模したものは、近代に中国でもドイツでも作られているようで、私も骨董市で見たことがあります。でも、この方のブログをよ下までよく読むと、本物が旋盤で作れるはずはなく、やはり手作りだと主張されています。よくわからなくなってきました。だいぶ脱線してしまってすみません。

 現在なら、旋盤も職人も必要は無く、3Dプリンタで作るのが早いようです。

_ 玉青 ― 2016年12月24日 15時33分25秒

象牙の幾何学的な入れ子細工は、昔のヴンダーカンマーではわりと定番化していた気配があって、その種の写真集で何度か見た記憶があります。ああいう品は、近代的な「旋盤」というよりは、もっと素朴な「轆轤細工」で作られたのかもしれませんが、16世紀以来、ヨーロッパの王侯の間では象牙や堅木を使った超絶的な細工物が大層流行り、彼らは競って工房を設け、加工技術もどんどん進化していったと言われます。そうした技術が宣教師とともに清朝の王宮にも伝わり、中国でも開花したのでしょう。

_ S.U ― 2016年12月25日 08時01分58秒

>素朴な「轆轤細工」
 近代的な西洋の旋盤を使ったというのも完全手作りというのも両極端の正しくない見方で、真実はその中間で、それぞれの職人が工作器械も工夫して作ったというのがもっともありそうなことに思います。
 今は、こんな道具があるからこういう物が作れる、道具を持ってないから作れないということになりがちですが、昔の優れた職人は道具を作るところから始める発想があったはずです。

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