水色とオレンジの星図2017年02月26日 23時17分49秒

天文古玩の「本領」というか、このブログの肝は、やっぱり天文関係の古物です。
最近はそこから派生して、ちょっと天文趣味とは遠いものを取り上げることも多いですが、リアルな星に関わる品は、依然「天文古玩の生命線」。

まあ、あまり王道路線にこだわると、価格的にきびしいので、手にするのは駄菓子的な品ばかりですが、そういう他愛ない品には、他愛ない品なりの魅力というのが確かにあります。言うなれば、豪華な飾り皿にはない、日用雑器の魅力といいますか、「天文界の民芸品」的魅力といいますか。

普通の天文趣味人が、普通に使った品にこそ、その当時の天文界の空気がいちばんよく表れるものです。

下の星図も、そんな品の1つ。


Carte de Ciel:visible de l’Europe Centraire de l’Abbé Th. MOREUX.
   Girard et Barrère (Paris), c.1930.

モルー神父による、中部ヨーロッパ版星図。
ジラール&バレール社という、地図の出版社から出たもので、刊年記載はありませんが、1930年代のもののようです。



この星図は折りたたみ式になっていて、中身を広げていくと…




大きすぎて、私の机の上では十分広げることができませんが、73×64cmほどある大版の星図です。購入時の商品写真を使わせてもらうと、全体はこんな感じ。


載っているのは5等級までの星で、まあ、どうということのない星図ですが、明るい水色とオレンジの取り合わせがきれいで、こういうところはフランスっぽいなと思います。

(中央部拡大)

この星図に魅かれたのは、星図としての魅力もありますが、いちばんの理由は、何と言ってもモルー神父の名前があったからです。

テオフィル・モルー(Théophile Moreux, 1867-1954)という、この興味深い人物については、奇怪なイスラム風天文台の主として、また美しい星図を編み、科学奇書を著した人として、そしてフラマリオンの下に参じて師の衣鉢を継いだ者として、過去に三度言及しました。

■ある神父さんの夢の天文台
■モルー神父の青い星図
■フランス天文学会の門をくぐる

そして、この愛らしい星図も、やっぱり彼の不思議な天文台で作られたものなのでした。

   ★

この星図の版元である、「ジラール&バレール社」について調べていたら、その所在地である「アンシエンヌ・コメディ通り17番地」のすぐ隣、同18番地は、ピエール・ジェラール・ヴァッサール(Pierre Gérard Vassal、1769-1840)という医師の旧居であり、彼はパリのフリーメーソン団体、「フランス大東方会(Grand-Orient de France)」の大立者であった…というようなことが、フランス語版のwikipediaに書かれていました。

まあ、そのことはモルー神父とは全然関係ありませんし、こういうのはパリや京都のように古い街なら、頻繁に起こる偶然なのでしょうが、でも、何となくモルー神父のことを思い浮かべると、パリの一角に漂う奇妙な「気」が、時を超えて引き合ったのかなあ…と思ったりします。


コメント

_ Nakamori ― 2017年02月27日 08時53分30秒

フランスの人々のアフリカに対する感じ方には興味がありますね。

モルー神父が天文台の建築にイスラム様式を取り入れた心中に「砂漠に上る月」があることを想像するのは楽しいことです。

「アフリカの星」で興味深い話をひとつ紹介させてください。既にご存じのことかも知れませんが、フンコロガシ(ここではScarabaeus satyrusという種類です)という甲虫が、餌の糞を転がして運ぶときに、月のない晴れた夜は天の川を見て方向を決めていることを確かめた人たちがいます。虫が星を眺めている姿を想像することは楽しいことです。

http://www.cell.com/current-biology/abstract/S0960-9822(12)01507-2

_ 玉青 ― 2017年02月28日 07時04分57秒

興味深い論文のご紹介、ありがとうございました。
昔の人にとって、スカラベは太陽を運ぶ聖なる虫だったそうですが、満天の星を見つめて太陽を転がす虫の姿は、実に聖性に富んでいますね。

論文の方はさっき走り読みしただけですが、仮説検証のために、スカラベに帽子をかぶせたり、プラネタリウムに持ち込んだり、何だか実験している人たちも楽しそうで、羨ましいです。現代のバイオロジーというよりも、ファーブル時代の香りというか、いっそ夏休みの自由研究的というか、まことに好感度大。これぞイグノーベル賞ものです…と書こうとして確認したら、本当にイグノーベル賞を取ってたんですね。(^J^)

_ Nakamori ― 2017年02月28日 19時06分45秒

本当ですね!2013年のイグノーベル賞を受賞されています!知りませんでした。

過去の受賞分野を見てみると、生物学と天文学にまたがった受賞は、彼等だけのようです。その意味でも面白いですね!
https://en.wikipedia.org/wiki/List_of_Ig_Nobel_Prize_winners#2014

_ 玉青 ― 2017年03月01日 06時37分08秒

昆虫と天文は、私の生い立ちの中で「二大好きなもの」に位置づけられるので、何だか無性にうれしいです。(^J^)

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