本邦解剖授業史(5) ― 2017年06月17日 11時56分44秒
さて、余儀なく授業が中断していましたが、この辺で再開します。
いよいよカエルの身体にメスが入ります。
でも、いきなりお腹にブスリ…ということはしません。
内臓を観察するだけなら、それでも良いのですが、カエルの身体構造をつぶさに観察するには、まず後肢から手術を始めます。
後肢では、主に筋肉と骨格、それに神経を観察します。
あまり文字に書き起こすのもどうか…と思いますが、その描写がかなり具体的なので、記してみます。
「蛙を蛙板に腹位に固定し、薬品にて麻酔せしめたる後、次の手術をする左手にピンセット、右に鋏を持ち、蛙の右後肢の大腿の中央部の皮膚をピンセットで撮〔つま〕み上げ、右の鋏でパチンと縦に切る。切れ目に鋏をいれて腿から足の尖端へ向って縦に長く皮膚を切る。膝関節のところでは皮膚が下の組織とくっついてゐるから少し注意して鋏で切るがよい。」(p.55)
そして、胴体に収まった内臓諸器官の観察。
これもまた描写がなかなか細かいです。
「蛙を今度は仰臥位(背位)に固定する。
胸を指で撫ると胸骨にふれる。骨に沿ふて下ると、その終り剣状突起に触れる。〔…〕で、これより少し下と思ふ所の皮膚をピンセットで摘みあげて、鋏でその下の筋肉も諸共に切断して、腹壁に小さい穴を開ける。茲〔ここ〕に鋏をいれて、腹壁を左と右の両側に切り開き、両側に達したら側腹を真直ぐ下方へ切り進んで、股まで行って止める。」(p.101)
胸を指で撫ると胸骨にふれる。骨に沿ふて下ると、その終り剣状突起に触れる。〔…〕で、これより少し下と思ふ所の皮膚をピンセットで摘みあげて、鋏でその下の筋肉も諸共に切断して、腹壁に小さい穴を開ける。茲〔ここ〕に鋏をいれて、腹壁を左と右の両側に切り開き、両側に達したら側腹を真直ぐ下方へ切り進んで、股まで行って止める。」(p.101)
もちろん解剖の実技はこれにとどまるものではなく、他のページには、いっそう刺激的な記述が並んでいますが、それらは割愛します。
そもそも解剖はひとつの手段であって、その先にある目的は、生体構造を観察し、その働きを実験的に確かめることです。当然、この本でもその部分に多くのページを割いて、筋肉の疲労実験、神経の電気刺激実験、心拍動の実験、消化実験…等を紹介しています。
(本書口絵。「蛙心臓迷走神経並に後肢諸筋」。右側に見えるのは、先端にプラスマイナスの電極を仕込んだ「白金電導子」)
いずれにしても、先に紹介した小野田伊久馬(著)『小学校六箇年 理科教材解説』(明治40年=1907)の解説にあった、「蛙を解剖せんには〔…〕腹部の中央より、縦に切開すべし。」というような、単純素朴なものではないことは確かで、解剖実習をしっかり行うことは、相当の知識と経験を要することですから、そうしたものを小学校の先生が身に着けるようになった――少なくとも身に着けられる環境が整った――のは、やはり大正時代以降なのだと思います。
(そして時代は戦後へ。この項さらにつづく)
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▼閑語(ブログ内ブログ)
昨日の記事は、いささか感傷的に過ぎたようです。
国会が死んだままで良いはずはないので、おーいおーい!と声を限りに魂呼ばいし、それでも蘇生が叶わなければ、反魂の術を用いてでも…。
でも、原子の炎で焼かれた広島や長崎に緑が甦り、人々の暮らしが甦ったように、そこにまともな人がいて、まともな声を挙げ続ける限り、特に暗黒の秘術に頼らなくても、国会は自ずと甦るのではないかという気もします。
まずはまともな声を絶やさぬこと、それが大切だと思います。
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