海洋気象台、地震に立ち向かう(その2)2017年09月02日 15時19分55秒

(昨日のつづき)


手元にある論文集は、

■ 『海洋気象台欧文報告(The Memoirs of the Imperial Marine Observatory, Kobe, Japan)』 第1巻第1号(1922年6月)~第4号(1924年8月)

をまとめて製本したものです。元はアメリカのスミソニアン協会の蔵書でしたが、除籍されて市場に出たものが、回り回ってこうして日本に里帰りしました。

問題の関東大震災に関する報告は、第1巻第4号をまるまる当てており、これだけで第1号~第3号を合わせたよりも分厚くなっています。(第1巻の約3分の2近くを、第4号が占める格好です。)

その報告の正式な題名は以下のとおり。

■K. Suda:  On the Great Japansese Earthquake of September 1st, 1923.
 (須田皖次、『1923年9月1日の日本大震災について』)

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さて、東京では昨日の記事のような塩梅でしたが、神戸では「その時」どうであったか。
須田の報文には、以下のように書かれています(拙訳)。

 「神戸では、弱い衝撃が1923年9月1日のほぼ正午に感じられた。上から吊り下った電灯がゆっくり揺れ、地震計は大きな、だがゆっくりとした大地のうねりを記録した。大森式水平振子の目盛りは、地震発生後2、3秒のうちに振り切れたため、その震動記録からは、発震の事実と、当気象台が最初に動いた方向を読み取ることができるのみだった。これは、これらの振子に制動装置がなかったことに起因している。磁気式制度装置を備えた大森式震動計およびヴィーヘルト式地震計は、大地の震動を忠実に記録したものの、限界を超える震動の端末において、やはり装置の描針が振り切れてしまった。」

東日本大震災のとき、震源から遠い地方の人も、何か尋常でない「ゆっくりとした大地のうねり」を感じて、たいへんなことが起きたのを直感した人が少なくないと思います。きっと94年前も同じような感じだったのでしょう。その際の地震計の記録が、昨日の記事に載せた図です。

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この後、まずやらねばならないのは、正確なデータの集積です。


報文には、台北、那覇、名瀬、鹿児島…から始まって、帯広、根室、大泊、釜山、仁川、大連に至るまで、当時、日本の版図だった内外56か所の観測拠点のデータが集約されて、一覧表になっています。(肝心の東京や横浜のデータが欠けているのが、被害の大きさを感じさせます。)

明治~大正の60年間弱で、とにもかくにも、これだけの観測網を築いた…というのはすごいことです。

表には地震の相(phase、地震の波形分類)と、到達時刻(世界標準時)が書かれており、相についてはP、L、Mというのが書かれています。

地震といえば、P波とS波を連想しますが、表中のPはP波に同じもの。いっぽうS波は、P波とともに「前走波」に分類されるので、ここでは特に区別されていないのでしょう。そして、L波「主要動の長波」M波「主要動の極大動」を意味します。「カタカタカタ…」の前走波に続く、「ガタガタガタ」「グラグラグラ」の部分です。

(下関や大分のようにP波とS波を、分けて読み取っている地点もあります)

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これらのデータを集約して、1枚の図にすると、震源と第一波の進行状況が、明瞭に浮かび上がります。


黒い矢印は、各地点における地面の初動方向、赤い曲線は、地震波が到達した等時線、そして各地のデータに基づく推定震源域のライン(黒線)が最も濃密に交わる相模湾こそ、真の震源であることを、結果は示しています。
この海底で発生した地震波は、片や北東へ、片や南西へと進み、2分あまりで列島全体に到達したのでした。


こちらは、全国の震度分布図
I(無感覚)~V(烈震)の5段階で表示されています。伊豆半島までがすっぽり最大のV、さらにⅣの範囲が広く名古屋、福井まで伸びているのが目を引きます。

なお、この5段階法ですが、和達清夫の『地震学』(昭和4、1929)では、我が国独自の「気象台震度」として、「0(無感覚)、Ⅰ(微震)…Ⅴ(強震)、Ⅵ(烈震)」の7段階法を挙げており、当時はまだ震度階級が浮動的かつ暫定的だったように思います。

ちなみに地震そのものの大きさをエネルギー量で示す「マグニチュード」の考え方は、1935年にチャールズ・リヒターという人が考案したそうで、こちらも当時はまだ未確立でした。

(記事が長くなるので、ここで記事を割ります。次回につづく)

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