政界の風は読み難し2017年09月27日 23時42分52秒

今回は閑語の拡大版。
清雅な気象趣味の話題は一服して、卑俗な政治の風向きの話です。
巷にはよく「政界地獄耳」みたいな記事がありますが、私もマネをして、無責任なことを書いてみます。

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今の混沌とした情勢を、どう捉えればいいのか?

心ある人の中には、安倍さんと小池さんの「二大極右政党制」の到来に恐々としている人もいるようです。でも、たぶんそうはならないでしょう。セクト主義とヘゲモニー(主導権)闘争は、何も左翼の専売特許ではなくて、今起こっていることは、まさ右派内部でのヘゲモニー闘争に他ならないからです。そして、本来狭いニッチに立脚している両雄(?)は並び立たないものです。

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以前、安倍さんの力の源泉は、日本会議、財界、アメリカだと書きました。
それで穏便に事が運んでいるうちは(安倍さん的には)何の問題もありませんが、今やそこに不協和音が生じています。その主な軋みは、安倍さんと日本会議の間の隙間風です。

日本会議とは、要は「生長の家原理主義者による極右カルト」ですから、根っから世俗的な安倍さんは、本来そんなものに義理立てしたくはないはずですが、その集票力には大いに魅力を感じて、これまで唯々諾々と従ってきました。

しかし、日本の財界にはそれを危ぶむ声がありました。
財界の最大公約数的意見は、現状を大きく変えることなく、アメリカとも、中国とも、そこそこ穏便にやってくれ…というものでしょう。それがいちばん儲かるからです。憲法だって、別にそんなに性急にいじってほしくないのです。安倍さんにしても、本音のところでは、己の権勢さえ保持できれば、「改憲」と心中する気はさらさらないでしょう。そこで、最近は公明党の顔を立てて、加憲案(9条はそのままに、自衛隊の存在を明記)に舵を切っています。

しかし、これが日本会議にはカチンときました。
籠池さんの切り捨てや、稲田さんを最後まで守らなかったことも、日本会議にすれば面白くない話です。日本会議にとって、国民の人気に陰りの出た安倍さんは、既に御輿としての魅力が薄れているという事情も大きいです。いずれにしても、意のままにならない傀儡に、傀儡としての価値はありません。

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そこに小池さんの登場です。
小池さんこそ、新たな御輿として相応しいという判断が、少なくとも日本会議の一部にはあるはずで、安倍さんはそこに相当な危機感を抱いているようです。

先日、野田聖子氏のスキャンダルが週刊誌を賑わせましたが、あれは野田さんと小池さんの接近が囁かれた、その機先を制して、官邸周辺が流したものに違いありません。その証拠に、野田さんが白旗を掲げたとたん、第2報、第3報が出ることなく、ピタッと報道が止まりました(スキャンダル自体は、自民党にとっても不利な諸刃の剣ですから、できるだけ早く収束させたかったのでしょう)。

今、いちばん機敏に動いているのは、おそらく公明党です。
公明党が小池新党への対決姿勢と、安倍さん全面支持を打ち出した背景には、改憲を実質的に断念すること、そして安倍さんが日本会議と距離を取ることを条件として提示し、安倍さんもそれを呑んだことがあるのでしょう。小池さんが、皮肉な笑みを浮かべて「首班指名は公明党の山口代表に」と言ったのは、それを踏まえた、相当強烈な当てこすりです。

いっぽう財界は、雀の涙ほどの賃上げを受け入れる代わりに、法人税の大幅減税を呑ませることを条件に、安倍さん支持に回る気配が濃厚です。

安倍さんは、今やすっかり手負いですが、こうして公明党や財界の協力を取り付け、北朝鮮危機を奇貨として(あるいは積極的に煽りつつ)、起死回生の賭けに出た…というのが、今回の解散劇の基本構図でしょう。

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こんな風に、嘘八百をさも本当のように書き散らすのは、なかなか気分がいいものです(上に書いたことは、全て私の寝言です)。でも、こんな寝言で溜飲を下げているようでは、簡単にしてやられてしまいそうです。それぐらい現下の情勢は複雑怪奇です。

旧来の常識では、この先、安倍さんが辛勝すれば、それを花道に岸田さんあたりに禅譲して幕…といったシナリオが思い浮かぶんですが、今はちょっと予想が付かないです。既に第1幕「仁義なき戦い」は始まっており、続く第2幕、第3幕の開演も、もうじきのようです。

さて、リベラル勢力の反転攻勢の機はどこに。

コメント

_ S.U ― 2017年09月28日 06時57分42秒

>リベラル
今朝の報道によってますますわからなくなってきました。
 民進党の前原党首は党公認をやめて小池新党との合流を提案しているそうですが、これは党まるごとの離党みたようなものです。党全体が離党する意味はわかりませんが、まあ党がなくなるというわけでしょう。解党や解散ではなく、蒸発というか議員も組織もなにもかも突然いなくなるイメージです。
 この案には、当然、両側から反対する人が現れるでしょうが、「いなくなる党首」相手にどう反対するのでしょうか。本当のリベラルの人は残るんでしょうか。

_ Nakamori ― 2017年09月28日 13時01分18秒

今朝のM新聞の中で、ハンナ・アーレントの思想が改めて注目されている、という記事が目を引きました。

「全体主義の起源」からの引用で、<大衆を納得させるのは事実ではなく、でっちあげられた事実ですらない。彼ら自身がその一部となるだろうシステムの一貫性だけを信じるのだ>という一節が紹介されていました。

これを読むと、何となくですが理解できたような気になります。意味不明な説明に終始する安倍首相や取り巻きでも構わない、と考える人が思った以上に多いのは、彼らが「事実」をそれほど必要としていないからではないかと。

とても怖い状況になってきている、と感じています。

_ 玉青 ― 2017年09月29日 18時13分00秒

○S.Uさま & Nakamoriさま

日本は一体どうなってしまうんでしょうねえ。もうびっくり仰天の展開です。
たしかにリベラルの立場からすれば、小池さんは安倍さん以上に危険な存在ですけれど、彼女のマジックもそう長くは続かないんじゃないでしょうか。彼女自身のカリスマ性はさておき、その配下があまりにお粗末すぎますから。

…と書いていて、「そりゃ、あまりに楽観的過ぎるんじゃないの?」という内なる声も聞こえます。でも、しばらく前の、何か鉛を呑んだような閉塞感・停滞感よりは、変化がある方がまだ健全な気もします。(私自身が「希望」に票を投じることはないにしろ。)

_ S.U ― 2017年09月29日 21時47分26秒

>日本は一体どうなってしまうんでしょうねえ
 ちょっと予想がつかずそら恐ろしい点もありますが、今までの経験から、投票行動自体は、まあ理解の範囲になるように思います。選挙制度や、選ばれた政治家の誠実さには大いに問題がありますので、選挙後の世論こそ問題だと思います。今回は、材料無しに大義なき選挙になったので、選挙後までは策無しのように思います。
 
 Nakamori様のコメントを拝見して、感じたことですが、日本人は事実=あまりにも過去の実績に寛容というか余り興味がないように見えます。
 うまく言えないので喩えますが、今の政治家業界は、たとえば、天気予報学会で、「私は、こんな方法で天気予報をしてみたい。そしたら良く当たるに違いない」、「いやいやこちらの計算方法のほうが当たりそう」というような学会発表ばかりがあるような感じです。たまに「私の予報方法では、過去に78%の的中率で、とくに雨降りはほとんどはずしませんでした」などという発表があると、聴衆(国民)が「過去のことを言っても仕方ないでしょ。何か新しいことをしないと良くならない。」と相手にされないという、そんな雰囲気ではないでしょうか。でも、過去を復習しないと知識が前進しないのは当然です。だから民主政治は進歩しないのではないかと思います。

_ 玉青 ― 2017年09月30日 12時52分34秒

まことに時宜を得た喩え、ありがとうございます。(^J^)
近ごろ「未来志向」という言葉がもてはやされますが、あれは「過去を見据えて」という枕詞がないと意味をなさないですよね。

_ S.U ― 2017年09月30日 16時40分34秒

この過去を振り返る方式を採用してみますなら、例えば安倍首相のいう「国難」は、北朝鮮の軍拡と日本の少子化ですが、これらは、不可抗力なのか、首相の政治手腕で避けられたのかという吟味になります。今後の政治で解決するものなら、ここまでひどくなる前になぜ「避けられなかったのか。首相の政治が悪かったのか、ということでちっとも首相に有利に働くはずがないと思うのですがねぇ。

_ 玉青 ― 2017年10月01日 07時55分07秒

ここでNakamoriさんの引かれたハンナ・アーレントの言葉を読み返すと、また味わいが濃いです。

_ S.U ― 2017年10月01日 18時53分04秒

>ハンナ・アーレントの言葉
 確かにうなづかせますね。この「一貫性」というストーリー=イデアを求めることが太古よりの人間の健全な本能であり、客観的に事実を見ることを説く孔子やフランシス・ベーコンの哲学のほうが近代科学も含めて不自然な方策なのかもしれないと思えてきました。でも、後者こそ智恵というものでしょう。

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