リヨンの天文時計2017年10月17日 20時30分43秒

昨日から冷たい雨が降り続いていましたが、今日はきれいな青空を眺めることができました。明るい日差しが嬉しく感じられる季節になりました。

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昨日届いた絵葉書。
フランス南部の都市リヨンに立つ、サン・ジャン大聖堂(洗礼者・聖ヨハネに捧げられたカテドラル)に置かれた天文時計です。


この角度から撮影された古絵葉書は無数にありますが、彩色されたものはわりと少ないと思います。

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まあ、ここは観光名所なので、古絵葉書に頼らなくても、ネットで画像はいくらでも見ることができます。例えば、高精細画像としてパッと目に付いたのは以下のページ。

Saint Jean Cathedral astronomical clock (by Michael A. Stecker)
あるいは動画だと、以下のものが、時計の細部や動きをよく捉えています。


Horloge astronomique de St Jean

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とはいえ、古絵葉書に写った古物には、いっそう古物らしい表情があるというか、何となく奥ゆかしさが感じられます。


この絵葉書、色彩感覚がちょっと独特ですけれど、これは手彩色ではなくて、墨版(黒一色の版)に水色とオレンジの色版を重ねた、3色刷りの石版絵葉書だからこそ生まれた効果です。

当時(1900年代初頭)は、まだカラー印刷の黎明期で、石版に合羽刷り(ステンシル)で色を載せるとか、墨版を網点で仕上げ、そこに石版を3色重ねるとか、仔細に見ると、その技法は実に多様で、これも古絵葉書の1つの鑑賞ポイントだと思います。

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さて、キャプションによれば、この時計は1572年にニコラス・リッピウス(Nicolas Lippius)という人が作ったと書かれています。

でも、この時計について検索していたら、ウィキペディアの「天文時計」の項には、「リヨンにあるサン・ジャン大聖堂にも14世紀の天文時計が設置」云々の記述があって、「あれ?」と思いました。

そこで今度は英語版を見にいくと、「この大聖堂の天文時計に関する最初の記録は1383年に遡るが、これは1562年に破壊された」とあって、なるほどと思いました。でも更に続けて、「1661年、時計はギヨーム・ヌリッソン(Guillaume Nourrisson)によって再建された」と書かれています。

いったい誰の言うことが本当なのか?
リヨンの天文時計については、この分野の基本文献である、ヘンリー・C.キングの『Geared to the Stars』(1978)にもほとんど触れられておらず、いささか途方に暮れました。

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が、さらにネット上を徘徊したら、ようやく謎が解けました。

L' Horloge Astronomique de la Cathédrale Saint-Jean de Lyon

上のページに、この天文時計に関する年表が載っています。

それによれば、時計は1562年に破壊された後、1598年にユーグ・レヴェ(Hugues Levet)とニコラス・リッピウスの2人が再建を成し遂げました(絵葉書の1572年と合致しませんが、これは再建着手の年と、完成年の違いかもしれません)。
ただし、当時の部品で現存するのはごくわずかだ…とも書かれています。 

この最初の修復の後、1660年にギヨーム・ヌリッソンが再度修復を行ない、時計はほぼ現在と同様の姿となりました。(英語版ウィキペディアの記述(1661年)とは、ここでまた1年のずれがありますが、物自体が完成した年と、正式にお披露目した年がずれているとか、何かしら理由はあるのでしょう。)

…というわけで、誰が正しいというよりも、それぞれに根拠と言い分があったわけです。要はどこに注目するか、の違いですね。

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まこと物に歴史あり――。
物だって、人間と同じく、その生い立ちを一言で語ることはできません。そのことを1枚の絵葉書に改めて教えてもらいました。

リヨンの天文時計は、ヌリッソンの修繕後も、18世紀、19世紀、20世紀の3回にわたって工人の手が入り、今に至っている由。やっぱり「物に歴史あり」です。

コメント

_ S.U ― 2017年10月20日 07時34分34秒

天文時計では、比較的単純な盤面が気になります。この天文時計の側面の表示は何でしょうか。わかりません。
 周りが60分割になっていて、普通の時分の時計にも見えますが、どの写真でも二つの針がほぼ正反対に向いていて不自然です。光芒らしきものが描かれているので、何らかの太陽の位置を表すものではないかと推測します。

 以前お尋ねしたストラスブール大聖堂のでもそうですが、サブの表示が何かは調べてもなかなかわかりません。人々の関心があるのは、だいたいからくり人形のようです。それ天文じゃないじゃん、と思います。

_ 玉青 ― 2017年10月21日 14時38分10秒

いつもながら観察が濃やかですね。
上の記事中のいちばん最後に挙げたリンク先を見ると、この正面向って右側の文字盤は、「The minute dial」だとありました(グーグルに英訳してもらいました)。つまり、これは「普通の時分の時計」でなしに、「分」だけを表示するもののようです。分針が中心から左右に伸びているので、一瞬どっちの示度を読めばいいのか、視認性が悪いような気もするのですが、これは多分デザイン上の要請によるのでしょう。

_ S.U ― 2017年10月21日 19時08分58秒

ご教示ありがとうございます。
 例のページは見たのですが、写真がなかったのとフランス語が不自由なため、見つけることができませんでした。

 「分計」というのは、現代の我々から見るともっともありふれた時計の機能なので、もっともつまらない物ですが、昔にしてみると、時間計測の精度のフロンティアだったかもしれません。原子時計の展示に匹敵するものかもしれません。

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