月に照らされ、ピエロと少女は2017年10月27日 21時01分57秒

これまた『月の光に』を主題にした可愛いカード。


1900年頃のクロモ。フランスのアルラット(Arlatte)社が販売していた、「チコレ・ブルゥ・アルジャン」の宣伝用カードです。


チコレとは、あの野菜の「チコリー」のこと。ここでは、その根を加工したハーブ、ないしお茶の代用品を意味します。(カードに書かれたレシピを見ると、牛乳で煮出して飲むと美味だとか。)


で、この6枚セットのカード、最初は例の歌詞をそのまま載せていると思ったのですが、よく見ると歌詞どおりなのは、歌の一番だけで、二番以降はぜんぜん違う文句になっていました。

しかもカードの正しい配列は、今もって謎です。
あまり自信はありませんが、以下腕組みして推理した順番で載せます。

   ★

(以下、カードは左→右の時系列で配列)

J'écris un poème ou l'on trouvera un plaisir extrême 
quand on le lira.
僕は詩を書くぞ。
読んだらみんなが大喜びするような詩を。


Au clair de la lune mon ami pierrot, 
Prête-moi ta plume pour écrire un mot.
「月明かりのピエロくん、
どうか君のペンを貸しておくれ。
言葉を書き留めるために。」

〔※…と、我が身を詠っている場面だと解釈しました。〕



Ma chandelle est morte, Je n'ai plus de feu. 
Ouvre-moi ta porte, pour l'amour de Dieu.
ああ、ろうそくが消えてしまった。
点(とも)す火が何もない。
後生です、どうかこの戸を開けてください。


Je n'ouvre pas ma porte à un vieux savetier
qui porte la lune dans son tablier.
靴直しのお爺さんなんかに、この戸は開けないわ。
前掛けにお月様しか入ってない靴直しにはね。

〔※「齢とった靴屋un vieux savetier」には、何かフランス語の含意があると思うのですが詳細不明。後段は「月明かりに照らされた」の意で、要するに「空っぽの」前掛けということかな…と思います。〕



Mais j'ouvre la porte au bon pâtissier
qui a des brioches dans son tablier.
でも、おいしいパティシエさんなら、この戸を開けてあげましょう。
前掛けに甘いブリオッシュを入れたパティシエさんならね。


Au clair de la lune mon ami pierrot, 
Mangeons ces brioches sans en souffler mot.
月明かりのピエロさん、
さあ、ブリオッシュを食べましょう。
言葉は御無用。

   ★

ピエロはいわば「月光派」の巨頭で、人間の品等でいうと至極上等の部だと思うのですが、それでもこんなふうに詩人たることを辞め、お菓子を頬張ってヤニ下がっているのを見ると、人間はやっぱり月にはなりきれんなあ…と思います。

   ★

ときに、このカードにはもう1つ不思議な点があります。

それはパリの有名百貨店「ボン・マルシェ」が、これと寸分たがわぬデザインのカードを配っていることです(そちらにはお月様の顔に「Au Bon Marché」の文字が刷り込まれています)。あるいは両者のコラボなのかもしれませんが、チコリーと百貨店では、いかにも対がとれていません。


いったい背後にいかなる事情があるのか?
いささか謎めいた感じが漂いますが、思えばこれまた人間臭い話ではあり、孤高の月のあずかり知らぬところでしょう。