至高の石2017年11月23日 07時42分30秒

結晶形態学にちなむ優品――と敢えて呼びましょう――に続き、「至高の鉱物」を登場させます。


ラ・ピエール・フィロゾファル、すなわち「賢者の石」です。

卑金属を黄金に変える力を持つとされ、古来多くの錬金術師が探し求めた幻の石。そして、錬金術が神秘の学問体系で覆われるにつれて、賢者の石はいよいよ謎めいたシンボルとなっていきました。

隠秘学の世界における賢者の石は、
「自らは死することなく、すべての死せる者を再生させるもの」であり、
「人々に究極の治癒、すなわち救済をもたらす霊薬」であり、
「始原より来たれる第二のアダム」であり、
その究極の実体は、イエス・キリストその人である…と言われます。


この赤い小箱に、その賢者の石が入っているというのですが、いったいそれは?
これこそ、聖なる方の不朽体を収めた聖櫃(せいひつ)なのか?

   ★

…と、無理やり話を盛り上げましたが、中身はただの子供向け玩具です。

(おそらく1900年ころのフランス製)

中に入っているのは、紙製のゲームボードとチップ、それに1枚のルール解説書。


遊び方は簡単です。
最初に15個あるボードのマス目に、15個のチップを全部並べ(色は特に関係ありません)、2人のプレーヤーが交互に1~3個のチップを取り去り、最後の1個を取った方が負け…というもの。日本にも「石取りゲーム」という、同様のゲームがありますし、替わりばんこに数字を1から順に(1個ないし3個ずつ)唱え、最後に30(あるいは20)を言った方が負け…という遊びも、同工異曲でしょう。

この手の遊びには必勝法があって、「賢者の石」のルール解説書には、そのことも書かれています。

   ★

何だか羊頭狗肉な気もします。
でも、このゲームの何が「賢者の石」なのかと考えると、それはボードでもチップでもなくて、形のない必勝法こそそれなのだ…という事実に気づきます。そして、必勝法の存在に目覚めた子供たちの幾人かは、「あらゆる問題にはアルゴリズムが存在する」という強固な観念に取りつかれ、その長い探求の道へと歩み出す…。それこそが、このゲームの「賢者の石」と呼ばれる所以ではないでしょうか。

(具象の石と抽象の石。左はドイツの半貴石標本)